麗司は静かに足音を忍ばせ、確保した物資を抱えつつ周囲の状況を観察した。時間の感覚が薄れ、冷蔵庫から出た場所の不安定な光景が彼に迫っている。かつては賑やかだったスーパーマーケットの内部は、今や陰鬱な静けさに包まれ、時折聞こえる物音が彼の神経を逆なでていた。その静寂に怯えながらも、彼は次の行動を考える必要があった。
思考が彼の中で渦を巻いていた。
「まずは、安全な場所を確保しなければならない。人の気配を感じ取られず、物資を整理する時間が必要だ」
彼はそう考え、スーパーマーケットの隅にある、普段は従業員用の休憩室であった一角を思い浮かべた。
休憩室は、来店客の目に触れない場所に位置していた。可能な限り静かな場所で物資を整理し、次の行動を考える必要があった。麗司はその方向へ向かうことを決意した。
慎重に足を運びながら、彼は休憩室のドアの前まで辿り着いた。手が震えていたが、ゆっくりとドアを開けて中に入る。ダンボールや業務用の冷蔵庫、古びた椅子が散らばる空間は、寂しさを醸し出していた。麗司は今の環境がどれほど不気味なものかを改めて感じ、少しでも安息できる場所を選ぶことに心を乱されていた。
部屋の奥にあるテーブルに物資を並べる。手に入れた缶詰とパン、スナック菓子を丁寧に並べてみる。
「これで、どれだけ持ち堪えられるのだろうか。リュックの中には限られた空間があるから、無駄なものは詰め込めない」
と考えた。重要な道具となり得る物と、食料の選別が肝要であった。
彼はまず缶詰のラベルを確認した。中身がどうなっているかは分からないが、彼にとっては生きのびるための貴重なアイテムであった。缶詰の重量感が、彼の生存への期待を少しだけ高めているように感じた。だが、ひとつ心に引っかかるのは、腐敗した周囲の臭いだった。生き残るために、一つ一つの選択が命をも左右すると思うと、彼の心に重い荷がのしかかる。
「まずは一日でも長く生き延びることだ。食料が確保できたのは良いが、水がどうなるかが一番の懸念材料だ」
麗司は心の中で考えた。水は生命に不可欠なものであり、この荒れ果てた世界では入手が難しい。すぐにでも次の水源を探さなければならなかった。
麗司は物資整理を急ぎながらも、ふと考えた。
「この状況をどうやって打開するのか。水のことを考えると同時に、周囲のゾンビの状況も把握しなければならない」
彼の頭の中では、次の行動計画が少しずつ形を成していた。
休憩室の棚に目を向ける。そこには飲料水のストックや清涼飲料が大量にあるかもしれない。普段の生活であれば誰も気に留めないが、今の麗司にとっては渇望の対象であり、貴重な資源であった。しかし、外にいるゾンビとの接触を考えると、慎重な行動が求められる。
彼は物資を整え、次の行動を計画し始めた。
「外に出る準備を整えて、早めに必要な物をできるだけ集めるべきだ。限られた時間を有効に使わなければいけない。慎重に、しかし着実に」
と、彼は自らに決意を促した。
持っている物資を確認すると、意外にも缶詰の数はそこそこ確保できていた。
「この缶詰、食料に困ることはないだろう。しかし、水はどうにかしなければならない」
彼は、目の前の状況に直面し、意識を集中させることにした。
周囲に勢い良く閉じ込められた空気が、彼の心を何度も揺さぶった。彼の中で生じる緊張感は、徐々に高まっていった。麗司は、物資の充実感と不安感の狭間で揺れ動きながらも、心の中で自らの選択の重みを理解し始めた。
休憩室にも限界がある。彼はすぐに行動を起こさなければならないと、焦りを感じる一方で、冷静さも失わないよう努力した。
「水を確保するために、外へ出る。不安に駆られたままでは何も進まない」
と胸の内で反芻した。
周囲の音に耳を澄ませ、少しばかり構えられた心持ちで麗司は立ち上がった。確保した物資をしっかりとリュックに詰め込み、今の彼にとって重要なものをしっかりと握りしめる。
「次の場所に行くためには、家に戻るときのルートも忘れてはいけない」
と自分に言い聞かせた。
ドアを開け、外の様子を伺う。冷たい空気が彼に迫り、周囲の静寂が彼の心音を強調するように響いた。美しい景色が広がるはずの場所は、今やただの廃墟に過ぎなかった。人々の笑い声や日常が消えた瞬間、麗司はその影響を深く実感していた。
「ああ、どうしてこうなったのだろう…」
彼は無意識に呟いていたが、答えは見つからない。手にしたリュックの重さは、彼の肩にかけられた責任を更に強く感じさせた。
外へ出ると、感覚が一気に研ぎ澄まされる。彼は周囲を観察し、人の気配を感じることもできない静けさを体感した。すぐ近くには、一体のゾンビがゆっくりと近づいてゆく。その姿に恐怖を抱きつつも、麗司は冷静さを保とうとした。
「行動を急くのは、無駄な運を消すだけだ。足音に気を付けて、やつらには見つからないように…」
休憩室から、彼は再び隠れられそうな場所を見つけるべく屋内を歩く。音を立てないように、トレーニングした忍者のように、身を潜めて動く。周囲の物や壁を利用しながら、巧妙に隠れ道を選ぶ。
「適応しなければならない。自分を守るために、立ち止まったら死が待っている」
と彼は考え続けた。
動く先にある入口のドア、明るい外光が一瞬彼の目に刺さる。少しずつ厳しい目線にさらされながら、彼は息を呑み、ドアを開ける準備を整える。そして自らの運命の一歩を踏み出す。次の目的地へ向かうのだった。
麗司は覚悟を決め、前に進んだ。彼の頭の中には、次に何をするべきかが明確に描かれていた。水源、物資、手に入れるべきものが鮮明にイメージされていた。しかし、その一方で、どれほど危険が身を潜めているかもわからない。
「生き延びるためには、困難に直面し、戦わなければならない」
彼はそう思い、リュックをしっかりと抱え直した。
清々しい感覚と恐怖が混ざった中で、彼は決して後戻りはしないと自分に言い聞かせ、静かなエネルギーを胸に抱えた。次なる挑戦に向かう彼の歩みが、終末世界での希望を繋ぐカギとなるのだ。彼の冒険がどのように展開していくかなど知る由もなく、生き延びるための道を歩み始めるのであった。