久遠乃愛は、豪華なカフェテラスが海風に揺れているのを見つめていた。彼女の隣には幼馴染の雪村彩音が座っており、やたらと興奮して手を振っていた。
「ねぇ、乃愛ちゃん!今日は本当に楽しみだよ!久しぶりの依頼だね」
彩音が笑顔で言った。
乃愛はその言葉に微笑みながら、海の波音を聞いていた。彼女は20歳の大学生で、文学を専攻している。幼い頃から推理小説に親しみ、すでに何件かの事件を解決した実績がある。それが彼女の興味を駆り立てるのだった。心の奥では事件への好奇心が高まっているものの、外見はクールでミステリアスな雰囲気を保っていた。
「依頼の内容はまだ詳しく聞いていないのですが、彩音さんが言うには、自治会の会計での不正使用疑惑だそうですわ」
乃愛が答えると、彩音の目が大きく輝いた。
「えっ!?不正使用があったの?それって面白そう!私たちが真相を突き止めるのね!早速行きましょう!」
彩音は元気いっぱいに立ち上がり、今にも走り出しそうだった。乃愛は彼女の行動力に感心しつつ、お嬢様口調で答えた。
「そうですわね、まずは手がかりを集める必要がありますわ。では、現場に向かいましょう」
2人はカフェテラスを後にし、自治会の会計が行われる施設へと向かう道すがら、彼女たちの頭の中にはすでに計画が渦巻いていた。
自治会の会合は、昼下がりの明るい時分に行われていた。建物の前には参加者が数人集まっていて、ざわざわとした雰囲気が漂っていた。乃愛は冷静にその光景を観察しつつ、彩音に指示を出した。
「彩音さん、現場の人々と話をしてみてください。その中に手がかりが隠れているかもしれませんわ」
「任せて!」
彩音はそのまま、人懐っこい笑顔で参加者に近寄っていった。乃愛はその後ろ姿を見つめながら、不安そうな顔をする参加者たちの様子を観察する。
数分後、彩音が戻ってきた。
「乃愛ちゃん、聞いたよ!会計の人が最近急に生活が苦しくなって、自治会の資金を使い込んだ疑いがあるみたい!」
「そうですか。それにしても、彼はどうしてそんなことをしたのでしょうか…」
乃愛は、最近の大学生活の中で彼を見かけたときの顔を思い浮かべた。いつも自信に満ちた表情を見せていた彼が、急に困窮した様子を見せるとは考えにくいが、こうした事件は思わぬ真実があるものだ。
次に乃愛と彩音は、会計を務めている学生に話しかけることにした。彼の名前は矢島誠だった。乃愛は彼の目を見つめながら、真剣に訊ねた。
「矢島さん、ご自身についてお話しできますか?最近の状況など、何か気になることがあれば教えてくださいませんか」
矢島は少し動揺しながら答えた。
「いや、特に…問題はないはずです。資金の管理もしていましたし」
乃愛はその様子を見て、彼の緊張感が真実を隠すかのように見えた。しかし、彩音が彼に声をかけ、その質問を続けた。
「でも、これからの生活で不安を感じることはあるよね?私たちもお手伝いできるかもしれないし…」
「生活費に困っていることは事実だ…」
矢島がぼそりと漏らした。乃愛はその言葉を聞いて、困惑した。
「でしたら、どうしてそんなことを自治会の資金に手を出してまでも行ったのですか?もっと他の方法があったはずですわ」
乃愛はさらなる真相を探ろうとした。
矢島は肩を落とし、無言になった。乃愛の心の中に、彼が何かを隠しているという直感が働いた。
「…おそらく、彼には他に選択肢がなかったのかもしれませんわ。しかし、それでも真相は追わなければなりません」
乃愛は心の中で決意していた。
「さて、どんな手がかりがあるか…」
乃愛は周囲を見回し、何か足りないものはないか探していた。
すると、その時、衛兵の靴下が目に入った。それは、一見して何の変哲もないただの靴下だったが、こっそりと隙間に落ちていたのが印象的だった。
「彩音さん、見てください。この靴下…おそらく矢島さんのものではないでしょうか」
乃愛が言うと、彩音は興奮しながらその靴下を持ち上げた。
「ただの靴下に見えるけど、乃愛ちゃんが何か感じ取ったの?」
「おそらく、これがこの事件の鍵かもしれませんわ。矢島さんがこの靴下を持っているということは、何か隠そうとしている証拠に繋がるかもしれませんわ」
乃愛の冷静な口調に、彩音も頷いた。
早速2人は、矢島の持ち物を調査するために彼の私物が保管されている場所へ向かうことにした。靴下の持ち主を見つけ出し、さらなる手がかりを探し出すための段階に来ていた。
管理室に到着すると、乃愛は鍵を借りて、中に入る許可を得る。
「これが私たちの最後の手がかりかもしれません。きっと隠されているはずですわ」
2人は急いで管理室を探索し、棚の上にある箱を見つけた。乃愛はその箱を開けて、中身を確認する。
「ここにあるのは、帳簿やレシートの束…」
彼女は驚きの表情を浮かべる。
「これが彼が使い込んだ金からの証拠になるかもしれませんわ!」
ワクワクしながら、それらの書類を調べていると、あるレシートに目が留まった。それは海辺のカフェで飲み物を購入した証明書だった。
「まさか、このカフェで使ったお金が共和国の会計から出された…ということですか?」
乃愛はより深く検討した。
「私たちが今、ここにいるカフェで使ったという噂なのかな?その情報が広まっているのなら、本当に彼の犯行かもしれない!」
彩音が胸を躍らせる。
乃愛はもう一度現場の会計に戻り、仲間と共に話し合う。そして、矢島がこの取引先で何をしたのか、他に誰が関与しているのかを再度徹底的に見直した。
やがて、陰で彼がどんな金銭的問題を抱えていたのかを突き止めるところまで至った。彩音が会計から得た情報を持ち帰り、彼の取り組みについて通告する必要があった。
「これで私たちが求めていた資料は、ついに揃ったわ。さぁ、この件の真相を明らかにしましょう!」
乃愛と彩音は決意を固めた。
結局、彼らは矢島に容疑をかけ、彼の不正使用の事実を明らかにした。海辺のカフェが重要な鍵を握っていたのだ。この事件は、予想外にも矢島の生活の窮地が引き起こしたものだった。
ただ問題は、彼の動機が不明瞭なまま残っている点だった。乃愛は自らの推理を深め、一層の謎に迫った。
「さて、これで解決とは言えないかもしれませんわ。まだ疑問が多すぎますね」
「でも、私たちが確信を持って動けたから大丈夫だって思うよ!」
彩音はあたたかい笑顔で応えた。
乃愛はその笑顔を見つめ、次第に心が和むのを感じた。彼女は冷静さを保ちつつも、これからの解決へ向けての道を見出していた。
「この事件を解決するためには、まだまだ方法があると思いますわ。さぁ、次のステップに向かいましょう」
と乃愛は彩音に告げた。彼女は自らの探偵としての情熱を新たに燃やしながら、自らの想像の世界へと進んでいくのだった。