黒川梨乃は、高校2年生のクラスでも一目置かれる生徒だった。冷静で優等生のイメージを持つ彼女は、誰からも信頼を寄せられる存在であった。しかし、その心の奥底には、彼女が密かに想いを寄せている村上和真への、一途な恋心が燃え盛っているのだった。
和真くんはのんびりとした性格で、周囲の誰に対しても平等に接することができる、優しい男の子。そんな彼に引かれた理由は、彼の優しい笑顔にあった。しかし、彼は私の想いにまったく気づいていない。私の心の中に起こる火花は、まるで彼の天然な振る舞いによって、さらに燃え上がるばかりだった。
今日は書道の授業がある。教室内には墨の香りと静寂が漂い、皆がそれぞれに筆を走らせている。私も頑張らないと。和真くんの目に留まる作品を作れば、少しは心の距離が縮まるかもしれない。書道が得意な私は、何を描こうかと考えながら、和真くんのことをチラリと見る。
「あ、桂花って、いい香りだよね」
彼は隣の席の友達と自然に会話をしている。彼の言葉は、まるで私の心に響く鈴の音のようだ。思わず心がときめいてしまう。そんな彼の隣にいることに、緊張と期待で胸がいっぱいになる。思い切って、和真くんの作品も一緒に見たいな。
「和真くん、第一回のテーマは何にするのですか?」
私はお嬢様口調で話しかける。彼は少し驚いたように私を見つめ、そしてにっこり笑う。
「んー、特に決めてないな。黒川はどうするの?」
「私は、和真くんをテーマにしたいと思うのですわ」
彼はぽかんとした顔をしている。私の心臓がドクンと高鳴るのを感じた。彼の表情を見れば見るほど、私の想いが通じるのではと期待したが、まったく気づいていない様子だった。
「それってどういうこと?黒川らしい選択だね」
言いつつも、和真くんはその言葉を冗談として受け流した。その瞬間、私の心は一瞬沈んだ。どうして彼は私の真剣な思いをそんな軽い冗談にしてしまうのだろう。私は苦しみを隠しながら、心の中で彼に叫んでいた。
「もっと、私を見て」
書道の授業が進むにつれ、私は自分の作品を一生懸命に制作した。筆で一画一画