麗司は洞窟のような暗い冷蔵庫の奥で、物資を探り続けていた。目の前に並ぶ腐敗した食材の陰影が彼の心に不安をもたらしたが、その中にはまだ救いがあるかもしれない。彼はすべての感覚を研ぎ澄ませ、体を屈めてさらに奥へと進む。
「音を立てないように、冷静に」
と自らに言い聞かせながら、顔を寄せて目を細め、危険を避ける行動をとった。
ようやく彼の目に留まったのは、微かな冷気を放つ缶詰の一群だった。外側は徐々に錆びつき、かつての輝きは失われていた。だが、麗司は不安を感じつつ、棚に手を伸ばし、一番奥にあった缶を引き出した。
「これが本当に使えるのか、食べられるものか分からないが、選択肢は少ない」
と考え、リュックにそっとポンと入れ込む。彼の心は焦りと期待の狭間で揺れていた。
冷蔵庫の中をさらに漁ると、彼はようやく保存のきくサンドイッチ用のパンも見つけた。
「期限が切れているかは不明だが、今は判断が難しい。無駄な過剰反応は禁物」
と自分に言い聞かせて、慎重にリュックの中に忍ばせた。周囲に気配を払いつつ、彼は頭の中で計算を始めた。
「これで、どのくらい日持ちがするだろうか。食事は一日三食、無理せず二日に一回は満腹になるように食べることを考えよう。水がなくなる前に、次の物資を確保しなければならない。周囲の環境も見定める必要がある」
と、考えるほどに、彼の頭の中には数式のように計算が求められた。
冷蔵庫の中に次第に商品が集まっていくのを見て、少しだけ安堵感を得た。一つ一つは小さな贈り物であり、彼が生き延びるための武器となる可能性があった。
それでも、時間は無情に流れていた。彼はあまりにも長く居すぎたのではないかという懸念が脳裏をよぎった。動かなければ、命が危険にさらされる。冷蔵庫の中の探索を続行することができるならば、多少の賭けに出ても良いが、最も重要なのはこの瞬間を生き延びることだった。
麗司は立ち上がり、トイレ側に戻った。隠れる場所を探しながら、デリケートな行動を続け、腰を低くしながら移動する。彼は耳を澄まし、姿勢を整え、音によって近づいてくるかもしれない脅威に備えた。緊張感が自分の体を包み込む。
「周囲の状況を観察しつつ、今後の行動計画を考えなければ」
と心の中で自らに折り返しかける。
ダンボールのような音が遠くから聞こえ、彼はその音の正体を探った。大きな物音や人声は耳に触れず、微かな物音が無情に響く中、麗司は動き続けた。店内の静けさの中で自分だけの時間が流れる感覚は、苦しさと同時に心の平穏をもたらしていた。しかし、冷静さを失った瞬間が彼を捕えることを忘れてはならない。
周囲に注意を払いつつ、大事な物資の存在に心を舞わせながら、麗司は外での立ち位置を最大限利用したいと思った。未だに自分の住む状況を整理するには時が必要であったからだ。潜在する危険を避けつつ、冷静に前進するための身の振り方を選ぶ必要があった。焦りからの反応は死亡の原因になる可能性が高い。彼はそれを一番恐れていた。
次なる目的地へ向かうため、麗司は全神経を集中していた。目に映る光景を一つ一つ観察し、心の中で行動計画を組み立て続けた。
「自分が必要なものを手に入れ、再び安全な場所に戻るための行動を起こさなければ」
冷蔵庫から戻った彼は、日用品の棚へと目を向けた。拡がっていたスナック菓子の棚がかつての賑わいを失い、いくつかの袋が切れて散乱していた。しかし、何かの役に立つかもしれないアイテムは残されているかもしれなかった。彼は気を緩めず、その場へ目を移した。
「焦って行動するのは禁物。厳しい環境だからこそ、行動が無駄にならないように考えることが重要だ」
と考えがっぱりしていた。彼は自分のリュックの位置を確認し、手が届く範囲のスナック菓子や保存食を見回った。ひょっとすると生き延びる最良の鍵になるかもしれない。
その中で彼が目をつけたのは、固く包装されたクッキーやせんべい類だった。
「これらは最悪の状況でも食べやすく、栄養価も低くないはず。これらを獲得すれば、何日分かの食料を確保できるかもしれない」
と麗司は思い、両手でいくつかのパッケージを持ち上げた。彼はそれをリュックに放り込み、手元に確保することを優先した。
足元には落ちたスナック菓子の袋が転がっていた。こぼれたスナックが、店内の寒気と共鳴するかのような感じがした。自分の脳裏に思い浮かぶ唯一の希望が、少しだけ現実味を帯びてきた。
「全力を尽くして生き延びなければ。自分の行動が生死を分けるのだから」
と心の中で開き直り、思索を進めた。
少しずつ物が集まる中、麗司の中では希望が若干の形をなしてきた。彼のリュックは少しずつ重くなり、体がかつての人混みに浸る感覚が薄れていく。
「ふむ。これで、しばらくは安心して生き延びられるだろう」
と独り言をつぶやき、周囲を見渡した。
だが、その安堵感の裏側には、すぐにでも新たな脅威が待ち構えているということを理解していた。彼は冷静さを保たなければ、すぐにでも自分がここから出ることを強いられる状況に置かれる。彼の心の奥にある危機感は、逃れられない運命を知らせていた。
「次はどうするべきか」
「ここからどう逃げだすのか」
彼は頭をなで回し、行動を起こさなければならない決意を再確認した。存続のためのサバイバルは設計された行動ではあるが、目の前の現実はいつも無情である。
麗司は奥の方にあるトイレが思い浮かべていた。音を忍ばせて移動し、再び身を隠す場所を確保する必要があった。安心する暇などない。心の中で知った恐怖が、彼を切り裂くように追い立てていく。
「まずは安全な場所に身を潜めて、次の行動を考えなければ」
と心を決めた。
彼は微かに足音を忍ばせながら、物資を持ったまま物静かに動く。どこかで自分の命をつなぐ未来のカギが、目の前にひらひらと見える気がした。その時、麗司は心のどこかで彼の生存をかけた挑戦の旅が続いていることを強く感じた。
生き延びるためには、決して諦めてはならない。明日が来るという確証もままならない中、自分の足元は頼りないが、環境に対して何らかの対抗手段を考え続け、死と向き合っていく覚悟を決めた。
次なる行動への扉が開かれかけている中、麗司は心をしっかりと決めつつ、繋がれた運命に抗う存在となることを決意した。次の準備を整え、自分以外に頼る者のいないこの閉ざされた都市の中で、彼は強く生き続けるための終末時間が再び待ち受けていることを受け入れつつあった。どの方向に舵を取るか、常に決断を求められる生存の旅が続いていくのである。