高校2年生の黒川梨乃は、同じクラスの村上和真に密かに恋心を抱いている。しかし、私の想いは『密かに』などという甘いものではなく、その行動や態度にはまるで洪水のように溢れ出ている。早く言ってしまえば、私の恋のゆくえは、彼にはまったく気づかれていないのだ。
今日も学校に着くなり、私は和真くんの姿を探す。私の目は自然と彼の居る方向に引き寄せられる。いつものふんわりしたミディアムヘア、優しい笑顔。そんな彼を見つけた瞬間、心臓がドキドキと高鳴る。あぁ、和真くん……あなたのことが大好きですわ。
授業が始まると、私の思いは一層強くなる。クラスメイトに目をやると、私の想いを知っている子たちがニヤニヤしている。ああ、ほんとうに恥ずかしい。まったくバレバレだなんて。でも、和真くんだけは、そんな私に全く気づいていない。しかも、彼の天然な言動が私の心を掻き乱すことが多いのだ。
放課後、クラスでは黒板に絵を描いて遊ぶことになった。『高生の日常を楽しもう』というテーマだ。進行役の子がテンション高めに言う。私も参加したい気持ちは山々だが、ただ一つ、和真くんの作品が見れるかもしれないという思いがワクワクと心を埋める。彼のセンスはどうなんだろう……気になる。
「お―い、梨乃!お前も絵、描くの手伝えよ!」
突然、そんな声がかかる。私の心が一瞬驚く。足を進めながら、見てみると、和真くんがかわいい外見のキャラクターを描いているところだ。
「和真くん、上手ですね。かわいいですわ」
思わず褒めてしまった。彼は天真爛漫に笑い、ついでに私にもその筆を渡してくる。彼の無邪気な笑顔に、私は悶絶する。ああ、もっともっとその笑顔を見たい。彼のためならなんでもできるのに、私は彼を傷つけたくないから、思いがすれ違うばかりだ。
絵を描くことが進む中、私は彼の描く絵に私の絵を重ねてみた。無邪気なキャラクターに、私のメッセージを添える。『和真くん、大好きですわ』と大きく描く。
なぜか少し照れくさい。しかし、彼に見られたらどう思ってくれるだろうか。そんな気持ちがさらに私の心に火を灯す。やっぱりこの気持ちを伝えなくてはならない。和真くん、この想いに応えてね。
ギャラリーが集まる中、さっそく他のクラスメイトたちが絵を批評し合い始めた。私たちやる気満々で描いてきたその絵は、仲間を呼び寄せ、まるで大げさな文化祭の一幕のようになった。私の心臓の鼓動が鳴り響く。周りに和真くんの笑い声や、楽しげな会話が聞こえてくる。
その瞬間、彼の顔に一本の黒い線が横切る。え?何事?彼の周りには、私の隣の席の薫さんが笑みを浮かべながらいる。そして、その線は彼が描こうとしている絵の一部になってしまった。彼の柔らかな表情が、その瞬間、固まる。
「黒川、これどう思う?」
和真くんが私に描きあげた作品を見せてくれる。その絵は、私が思い描いていた存在とはかけ離れたものだった。和真くんが描いたキャラクターの顔は、まるで珍しい動物みたいになり、私の心をざわざわさせる。しかし、その表情から、私への気持ちが全く読み取れない。
「うーん。あまり可愛くないかな?和真くんのキャラクター、本当はもっと大人っぽい印象ですわ」
私は思わずふきだしてしまい、その場の空気が一瞬止まる。周囲の友達が耐え難い笑いを堪えきれず大声で笑い始める。その声に響く和真くんの笑顔が、ますます私の心をトキメかせる。どうやら彼は、私が何を言いたかったのか全く分かっていないらしい。
「そう?じゃあ梨乃も一緒に描いてみる?」
その言葉に心が踊る。彼と一緒に過ごす時間、それは私の全てを温めてくれる何にも代え難い瞬間。私は無邪気に、
「はい!」
と返事し、和真くんから受け取った筆を必死に持つと、自分の中の可愛い絵を描き上げる。
私の心の中の気持ちを文字にして描いてみる。『和真くんに愛されて幸せですわ』と大きく書く。そして、それを周りに見せ浸る。私の周りの友人たちがそれを見て振り向く。
「え、これってまさか、黒川の……?」
友達の一人が驚き、気がつく。その反応を見て、私は自信に満ちて笑う。
「私の愛は重いのですわ」
と言った瞬間に、クラス全体がまたもや盛り上がり、私も含め、笑い声が響き渡る。
それに混じる和真くんの声。
「黒川は本当におもしろいな」
と言いながら、本気で笑っている。彼の心に響かないと感じるたびに、私は少しずつ期待を寄せる。
「和真くん、今度また一緒に絵を描きましょう。私の描く愛の絵が、いつか和真くんの心を突き動かすかもしれませんわ」
私の言葉に対して、和真くんは困惑しつつも、いつものようにニコニコ笑う。
「もちろん、黒川と一緒なら何でも楽しそうだし、いいよ」
その笑顔を見た瞬間、私の心はドキドキして胸を打たれる。この微妙なすれ違いすら、私は楽しめているのかもしれないと感じる。彼の無邪気さやひたむきさは、今も私の心を掴んで離さない。
今日の出来事を思い出しつつ、私は自宅に帰る。ほのかに幸せな気持ちになり、同時にドキドキの感情も重なる。明日も和真くんに会えると思うと、自然と頬が緩んでしまう。
「明日こそ本気で思いを伝えよう……」
私は心の中で、そう決意する。和真くんに、自分の愛がどれだけ重いものなのか、少しずつ伝えていく道を見つけたい。その気持ちが新たな展望をもたらしてくれると信じて。
未来を夢見る私の心には、和真くんのふんわりしたミディアムヘアが常にくっついている。それが、私の愛と友情の形となり、私の心をさらに温かくしてくれるのだから。明日は、彼に想いをちゃんと伝える準備をしようと意気込んで、自分の部屋へ足を踏み入れた。今日のすれ違いを経て、少しでも二人の距離が縮まったら嬉しいな。