青志は、まだ薄明るい冬の朝に目を覚ました。窓の外では、凍てついた空気が美しい霜に変わり、まるで白い絨毯が地面を覆っているかのように見える。彼はベッドから起き上がり、まだ寒さの残る部屋の中で体を温めるため陶器のカップに温かい水を注ぎ、味わった。それからベランダに目を向けると、果敢に生えている葉物やハーブが霜に覆われていた。
「まだ生きている」
と淡い期待を持ち、心が温かくなるのを感じた。
せっかくの春を迎えようとしている植物たちが、厳冬の中でどれだけ生き残れるのか果てしない不安が彼の心に浮かぶ。その一方で、彼は育成のための準備をしなければならないという使命感も強く感じていた。温室の手入れは当然のことながら、これからの作業を進めるためのインスピレーションを受け取る日でもある。彼は整然とした思考の流れを頭に浮かべつつ、今日の計画を立てた。
青志は、まずスープを調理するために残った豆を確認することにした。彼は冷蔵庫へと向かい、残っている食材を一つ一つ丁寧に取り出し、検証する。冷蔵庫の中には、大豆やレンズ豆、そして黒豆が残っていた。彼は目を細めながらそれらを眺めて、
「大豆はピクルスにできるな、レンズ豆はスープにピッタリだ」
と自分に言い聞かせた。黒豆はそのまま煮込んでも美味しく感じられるが、彼はそれをどう演出しようかと考えを巡らせた。
酒飲みの彼は、イメージを具現化するためのレシピを考え、その中に自分のアイデアを注ぎ込むことで心を満たしていく。料理は単なる食事ではなく、自分を表現する道具でもあるからだ。彼は、一つ一つの豆が持つ特性を思い浮かべながら袋を開けると、温かさを感じるような香りが鼻をくすぐった。
「まずは、大豆を使ったハム風の保存食。何か肉が食べたくなるからね」
と独り言をつぶやくと、青志は大豆を水に浸すための準備を始めた。浸水した豆がふやけていく様子を見て、彼はその独特な変化に心を躍らせる。食材を自分で育てるのは簡単ではないが、そんな努力が生み出す味わいは何物にも代えがたい。
その後、彼は温室に目を移し、あらかじめ準備したプランターの様子を確認することにした。外に出ると、冷たい風にさらされた顔がひんやりとし、彼は思わず身をすくめてしまう。だが、温室の中に足を踏み入れると、外の厳しい寒さが一瞬にして忘れられる。ガラス越しに入り込む光が、彼を包み込むように暖かいのだ。
青志は、温室の植物たちがどうなっているのか心をこめて観察した。室内は、霜が溶けてドロッとした土が少し湿気を含んでいて、彼は心が和むのを感じた。
「元気だな、もう少し待ってくれ」
とつぶやき、彼は今後の育成に意欲を燃やす。そして、配置を工夫することで、光の差し込み方を最適化する計画を立てる必要があると気づいた。
青志は、温室の小道を整えるための材料を探しに倉庫へと移動した。倉庫の扉を開けると、古い木材や工具、様々なDIY用の資材が散乱しており、彼はまず目を凝らしながら必要な道具を揃えていった。
「これも、あれも使えるな」
と彼はブツブツ言いながら、今後の作業で使うべきものを丁寧に選別する。
必要な木材を持ち帰り、青志はプランターの間隔や配置を調整する作業に取りかかる。彼は道具を使い、木材を切ったり、組み立てたりすることで、小さな棚のようなものを作り手持ちのスペースを確保する。これによって、植物たちがより効率的に光を受けられるはずだ。
作業を進めていく中で、手が冷たくなってきたため、青志は厚手の手袋を着用することにした。
「これで少しは温かくなるだろう」
と思いつつ、手元を見つめながら精密な作業を続ける。
「温室での作業は基本的に楽しいが、冬の寒さが厳しい」
と彼は心の中で愚痴をこぼす。この厳しい環境で植物を育てることは決して容易ではなく、何度も壁にぶつかった。だが、彼にはその手ごたえが愛しいのだ。
「どれほどの逆境でも乗り越えられる、まだ生きている」
と自分を奮い立たせる意味も込めて言葉をつぶやく。
午前が進むにつれ、青志は作業がひと段落ついた後、温室の中で少しだけ休憩を取ることにした。温かい飲み物を用意し、持ってきたキャリーカップに煮た豆で作ったスープを入れる。熱々のスープを飲みながらぼんやりと植物たちを見つめ、
「これで命がつながる」
とほくそ笑む。
ひと段落の間に、彼の頭の中にはまた新しいアイデアが芽生え始めていた。事前に計画していた大根やカブ、これらを使った保存食のアイデアだ。大根は生でも食べられるし、煮込んでも美味しいが、彼は夢中になりながらそれらを発酵させてみることに着目した。
「そうだ、発酵させれば数ヶ月程度は持つし、この寒さであれば衛生的にも問題ないはずだ」
と青志は心の中でつぶやいた。早速、温室からドリップ装置を用意し、刻んだ大根を用いて発酵させるための準備を始めた。彼にとって、この作業は心の安らぎであり、自分だけの独自の技術を駆使する時間となるのだ。
発酵食品を作るためには、適温を保つことが求められるが、青志は温室の暖かい空気を感じながらその手法をどう生かしていけるか思案した。もちろん、発酵の結果に期待しつつ、時にはうまくいかないことも自覚していたがそれでも、
「それが人生だし、挑戦も必要だ」
と彼は諦めずにアプローチを続ける。
ゆっくりと時間が過ぎ、昼に近づいてくる頃、青志は周囲を見渡しながら自分の作業の進捗を感じ取った。
「これが終わればまた次のステップだ」
と彼は胸の中で自らを奮い立たせて、再びプランターの手入れへと向かった。
数時間後、青志の作業は一段落し、彼は
「まずは生の大根からうまくいくか試すために、一度味見をしよう」
と心の中で確認した。手にとった一片を口に運ぶと、その風味が広がって
「これならきっと発酵した後も美味しいだろう」
と笑顔がこぼれる。
再び町へと視線を向ける青志。
「人々はこの季節にどうやって生き延びているのか」
と彼の思考は交差したが、彼は確固たる生き方は捨てていない。仲間たちともども、彼自身の生存方法を貫き通すこと、自分の手で育てていくことを決意したのだった。
「生き延びる新たな道を探し続けなければ」
と彼は決意を抱きつつ、その日の作業を終えた。
外は日が沈み始めており、青志はコルクボードに新たなプランを整理するための時間を設けた。
「今後はどんな保存食を作るか、他にも工夫の余地があるはずだ。豆の発酵も含めて、計画を練り直すぞ」
と彼は意気込みを真剣に感じ、体全体で充実感を味わっていた。どんな環境であれ、自分の特技を結果に結びつけるプロセスは決して無駄ではなかった。
「この冬を乗り切り、たくましく生きていくために、必要な工夫を信じよう」
。彼の中に宿る希望が、これまでの孤独さを乗り越えて、強さに変わったのだった。寒空の中、温かい食事を作り上げることが彼にとっての力となると信じてやまなかった。青志の物語は、やがて他者との様々な出会いや知識を持って、さらに彼自身を強化するために続けられていくのだ。