青志は翌朝、冷たい朝日が温室のガラスに反射する音を聞いて目を覚ました。早速寒さ対策を施すために、コートを羽織り、厚手の手袋をつけて外に出た。今朝は特に冷え込みが厳しい。彼は身をすくめながらも、自分の目標を思い出し、決意を新たにして温室に足を踏み入れた。
まずは、昨日の続きの作業を始めることにした。保存食作りの計画を立てることが急務だけれど、作業自体が彼を忙しくさせ、気を紛らわせてくれるのもまた事実だ。温室に入ると、外の冷気とは対照的に、室内はほんのりと穏やかな暖かさが感じられた。青志は少し安心した気持ちで、事前に計画していた野菜の育成に取り掛かることにした。
まずは、新たに準備した土をプランターに入れる作業だ。彼は、スコップで土を掘り起こし、丁寧にプランターに盛りつける。冷たい手が土に触れるたび、ひんやりした感触が指先を伝わり、彼は心地よい感覚を覚えた。細やかな作業が、生活に彩りを与えていることを感じられるのだ。
「まずは、大根とカブから始めるか」
と声に出してみる。余分な思考を振り払い、根菜類の成長を見込んだプランを頭の中で整える。それぞれの育成に必要な条件や成長習性を考慮し、最適な配置を模索する。青志の反射神経が活き、無意識のうちに頭が回転していく。
土を入れ、その上に種を撒くと、彼は大根やカブに愛着を覚え始める。
「お前たちが育つことで、自分に力を与えてくれる」
とつぶやくと、手を丁寧に土で覆いながら、その思いを込めた。一つ一つの種に意味が込められている。これで彼の食状況は格段に改善されるはずだ。
作業を進める合間に、青志は次なる保存食の計画を練ることを忘れなかった。昨晩、彼が考えたマメを使った料理のアイデアを頭の中で整理し、実行可能なものに絞り込んでいく。
「マメは栄養価も高く保存が効く。保存食にぴったりだ」
と納得しつつ、それに伴い、どのような味付けや調理法が適しているか考えを巡らせた。
とりわけ彼の興味を引いたのは、豆のピクルスと、冷たくても食べられる豆のサラダだ。仕事に取り組んでいると、さらに良いアイデアが浮かんできた。
「乾燥豆を使ったスープの素もいいかもしれない」
と、彼は思いつくと同時に、それに必要な食材を隣の倉庫で忘れずに確認しようと考えた。
温室の整備を終えた彼は、自宅に戻り、調理に着手するために必要なものを集める準備を整えた。さまざまな豆類と香辛料、そして野菜を整えるためにキッチンに足を運ぶ。彼は冷蔵庫を開け食材を確認し、どれがどれだけ残っているのかを把握した。
「これなら十分に作れるだろう」
と胸が膨らむ。
青志は、小さなカウンターに材料を並べて、計画的に調理を始めることにした。作業をするにあたり、あらかじめ必需な道具を準備しておくことが、彼のDIYスキルの一つである。自分の手で作ることの自由さや楽しさを重んじ、計画を立てて効率的に進めることにこだわり続ける。それらの工夫が、彼の孤独な生活を少しでも楽しませているのだ。
「まずは豆のピクルスだな」
と言えば、手元には大きな鍋とボウルを用意し、豆を茹でるための水を用意する。ブクブクと泡立つ水の温度で心が和らぎ、
「かなりの量になるかもしれない」
と期待をのぞかせながら、熱心に作業を進めた。料理は、彼にとって生き延びるための技術であると同時に、心を満たしてくれる存在でもあった。
そして、ピクルス液を準備するために必要な材料を切り始める。彼は辛さのバランスを追求し、適度な酸味を持つような味付けを探求する。
「この酸っぱさが癖になる味だといいな」
と心の中で呟き、具材を一つ一つ丁寧に処理していく。目の前に広がる材料に感謝しながら、自分の手元で新しい料理が生まれていくことに心躍る。
ピクルスの準備が終わり、次に豆のサラダに移る。彼は混ぜる作業を進めていく中で、これまでの孤独な時間が少しずつ解消されていくのを感じた。豆をボウルに入れ、細かく切った野菜を加えると、色鮮やかな一品が完成する。
「これでしばらくは食料に困ることはないだろう」
と、自信にあふれた気持ちで、サラダの味見をする。
作業が一段落した頃、外からふと視界を横切る動きを感じた。その瞬間、彼は驚きとともに周囲を見渡した。真っ白な雪で覆われた景色の中、遠くに人影が見える。人々は互いに寄り添い、顔を笑顔で輝かせている。
「彼らも生き延びようとしているのだろう」
と、青志は胸が熱くなるのを感じた。
人々の姿を観察することで、自身の孤独をより強く感じてしまった。しかし、同時に彼は自分の進む道を誇りに思うようになった。彼は自分自身の努力を信じてやまなかった。
「彼らと同じ生活を享受するのか、自分の力で生き延びるのか」
という選択肢の中で、選んだのは自分の手で作る生活だ。そして、それがどんな形であれ自分にとって重要なのだと気付いた。
再びキッチンに戻り、青志は次なる作業に取りかかる。今度は乾燥豆を利用して、スープの素を作り上げるためのプロセスを開始した。鍋に水を足し、乾燥豆を投入する。
「これで完璧なスープの素ができあがるだろう」
と安堵感を持ちながら、火を入れ加熱を始める。香りが立ち上り、彼はその香りに包まれて、心の安定を感じていた。
スープが煮える音と豆の香りが室内に広がり、青志の心が豊かに満たされていく。何もかもを自手で作り上げることの喜びを、彼はしみじみと感じ始めていた。周囲の極寒の環境は今なお厳しいけれど、心はどこか温かく、多くの人と繋がることができる未来への希望を抱かせてくれる。
「自分の力で生き延びることが出来ている。これこそが人との繋がり」
と、彼は心の中で仲間を思い描く。どんなに孤独でも、彼は決して諦めない。彼にとってサバイバルは、自分が何を持っているのか、自身を見つめ直す時間でもあった。
スープがようやく煮えると、青志は自分の進むべき道のりを改めて考え始めた。冷たい外の世界にいても、彼の心の中に燃える想いは消え残っていた。
「この冬を越え、植物が元気に育ち、新たな生活が待ち望まれる」
と希望の光を心に宿していた。次の一歩を踏み出すために、懸命に努力を惜しまぬ決意を持ち続けるのだ。
日が沈むと、彼は温かいスープをすすりながら、自身の成長を感じていた。
「次は、もっと大きな成果を出さなければ。冬を越えて、新しい生活を手に入れるために」
と気持ちを新たにし、彼のあたたかな食事は、さらなる明日への希望を繋げていた。青志の物語は、まだ終わることなく、仲間に対する期待と自信が彼を導いていくのだった。