第35話 「若き探偵の冒険: 不気味な池の謎を追え」

久遠乃愛(くおんのあ)は、20歳の大学生であり、自他ともに認める若き探偵であった。彼女の心の中には常に冷静さが宿り、無駄な感情を排除した観察力が、数々の事件を解決に導いてきた。その黒髪のロングストレートは、彼女のミステリアスさを強調している。

この日、彼女の相棒である幼馴染の雪村彩音(ゆきむらあやね)が、元気一杯に乃愛のもとに駆け寄った。彩音は陽気で社交的な性格で、乃愛とは正反対の存在ともいえる。彼女はいつでも人懐っこい笑顔を絶やさず、周りを明るくする役割を持っていた。

「乃愛ちゃん、また事件の依頼が来たの!」
と彩音が興奮気味に言った。

乃愛は一瞬眉をひそめた。最近、彼女たちの周囲では不審な出来事が続いていた。依頼が増えるのは嬉しいことだが、それと同時に混乱も生む場合がある。彼女は心を落ち着け、彩音に話を聞くことにした。

「どんな事件ですの?」
乃愛は冷静に尋ねる。

彩音は目を輝かせながら答えた。
「キャンパス内の池に、奇妙なものが浮かんでいるって話よ。それを見た人が驚いて、すぐに管理事務所に通報したみたい。でも、点検しても池は普通だったってさ」

「ふむ、何が浮かんでいたのかしら?怪我をした動物や、見知らぬ物体だったのかもしれませんわね」

「そうみたい。気になるのは、槙野先生がその近くにいたとか」

「槙野先生…文学部の教授ですわね。彼の言葉に何か意味があるのかもしれません」
乃愛は小さく呟き、着替えを済ませると、彩音を伴ってキャンパスへと向かった。

キャンパス内に入ると、若者たちの笑い声や楽しげな会話が飛び交っていた。その中でも特に目を引いたのは、池の周囲で集まる学生たちの姿である。ある噂に影響を受け、現場を見に来たのだろう。乃愛と彩音は、彼らの様子を観察しながら、池にたどり着いた。

池のぱしゃぱしゃと水音が静かに響く。乃愛の目はさまざまな景色を色細かに観察している。池の水面は穏やかで、その中に何が浮かんでいるのかは一目で分からなかった。しかし、何かが不気味なものに見える。乃愛は直感で、すぐに周囲の景色を頭に叩き込んだ。

池の近くには人が集まっており、彼らの話し声から興味深い手がかりを引き出すことができた。
「何が浮かんでいたんだろう」
という声や
「それ、本当に置かれたのか、誰かが投げ入れたのでは」
など、さまざまな考察がなされていた。

彩音はその光景に目を輝かせていた。
「乃愛ちゃん、ここから何か手がかりを見つけられないかな?」

乃愛はやや思考を巡らせる。
「確認しないといけませんわ。まずは池の周辺を歩いて、何か証拠があるか探しましょう」

彼女たちは池のそばを歩き回り、注意深く観察した。水際には小さな石が散らばっており、植物がゆらめいている。何も見つからないまま、乃愛は微かに口を開く。
「ここには、何か変わったものが…でも見つからないのかしら」

その時、彩音が足元を何かでつまずいて転びそうになった。その瞬間、彼女の足元から一枚の紙片が出てきた。慌ててそれを拾い上げると、薄い紙には見たこともない文字が走っていた。

「これ、なんだろう?」
彩音は不思議そうに覗き込んだ。

乃愛はそれを注意深く読み解く。
「図書館の本棚に隠されたもの…何かヒントが書かれているのかもしれませんわね。私たち、図書館に行きましょう」

2人は大学の図書館へと足を運び、さっそく本棚を見渡した。図書館内は静寂に包まれ、学生たちが静かに本を読んでいて、どこか異様な雰囲気が漂っていた。

乃愛は
「この中に、何が隠されているのかしら」
とつぶやき、本棚をじっくりと眺め始めた。手元の紙片の内容を思い出しながら、目を凝らす。幾つかの本を手に取って確認し、丁寧に戻す作業を繰り返した。その時、彩音が声をあげた。

「乃愛ちゃん!見て、ここの本棚、なんか変!」

乃愛が振り向くと、彩音は一冊の本をのぞき込んでいた。その本の背表紙は古びており、周囲の本と比べて明らかに異質だ。乃愛はその瞬間、何かの直感を覚えた。彼女は本を引き抜き、その下に何か隠されていることに気づいた。

「この本の下には、手がかりがあるはずですわ」
乃愛は本を更に引っ張り、注意深く周囲を探る。
「やっぱり、何かが挟まっていましたわ」

本の下から出てきたのは、薄いカードだった。乃愛はそれを慎重に手の中で持ち上げると、細かい字で何かが書かれていることに気がついた。

「これ、何の文字なのかしら」

「私、少し調べてくる!」
と彩音は目を輝かせて言った。彼女は図書館のパソコンへと駆け寄り、調べ始めた。

乃愛がカードの内容を熟考し、ついにその意味に気がついた。
「これは、まさしく槙野先生のサイン本に関するものでしょう。何かが起こっていることを示しているのかも」

数分後、彩音が戻ってきた。
「乃愛ちゃん!調査したところ、槙野先生は最近、学生の前で話す機会を増やしているらしいよ。それに、何か最近起こった不審な出来事も関与してそう」

「不審な出来事…もしかして、注目を集めたいのかしら?」
乃愛は思考を巡らせたが、不安がさらに膨らんできた。彼女たちは早速槙野先生のオフィスに向かった。

オフィスに入ると、槙野先生が待っている事を知った乃愛は思わず緊張した。今まで何度もお世話になった教授であり、尊敬する人物だったからだ。しかし、彼の言葉を借りて行動する必要があった。

「少しお話をお伺いしてもよろしいですか、槙野先生?」
乃愛が丁寧に尋ねる。すると槙野先生は面白そうに微笑み、頷いてくれた。

「何か問題でも起こったのかい?」

「実は、キャンパス内の池に…」
乃愛は先ほどの出来事を簡潔に説明した。槙野教授は驚いた表情を浮かべた。
「それは面白いね。学生たちの関心をひくだけのことしか考えていなかったが」

「関心…ということは、故意に何かを仕向けたのでしょうか」

槙野教授は目を細めながら考え込んでいる。
「どういう理由で…」

その時、彩音が気づいた。
「先生、この件について何か隠されていることがありますか?」

「隠し事はないさ。ただ、私も無意識に興味を集めたかもしれないが…それがどうして問題になるのかは、まだ分からない」
槙野先生は腕を組み、思案する。

「実は、最近私のバイト先の店長が悪目立ちしていて、何かを企んでいるかもしれない。注目を集めることに執着している感じがする…」

「それが動機かもしれませんわね。もし、池の出来事が何かを引き起こしているのなら、彼の思惑が大きく関与しているのかも」
乃愛は興味を覚えた。

「そういえば、彼は最近、学生たちに派手なイベントを提案していたな。注目を集めるために、何かトリックを考えていたのかもしれん」
槙野先生は納得したように頷いた。

乃愛はその言葉を受け、素早く行動を起こす必要があると思った。
「時間がないかもしれませんわ。私たち、さっそく彼の店に向かいましょう!」

2人は槙野先生に別れを告げ、店の方へ急いだ。すると、彼女たちが店に着くと、周囲は人で賑わっていた。バイト先の店長の声がかき消されるかのように響き渡っていた。

「いらっしゃい!」
店長が無邪気に手を振っていたが、その目に妖艶さが宿っているように見えた。
「最近、君たちがよく見る」
と言った直後、乃愛の心臓が跳ね上がり、彼の横顔の微妙な笑みが気になって仕方がなかった。

乃愛は観察を続け訝しく思った。
「まずは店の周囲を見て、手がかりを見つけたいですわ」

彩音も同じように感じたのか、彼女も周囲の物音を聞いていた。二人はしばらく、周囲の様子を窺うことにした。すると、店長が突然周囲を見回し、一瞬目が鋭くなった。

「どうしたのね?」
乃愛は聞き返すも、店長は何も返さず笑顔を見せている。

「ちょっと用事があるから!」
店長は周囲に目を配り、姿を消した。その一瞬の隙に、乃愛は彼の足取りを追うことに決めた。

「行こう、彩音さん。彼の後を追いましょう」
乃愛はさっそく行動に移り、彩音を道連れにして、店長の姿を探すことにした。

店の裏口へ回りこむと、店長が何かを手にしている姿が見えた。邸の壁に沿って待機し、ネルソンに近づく。その瞬間、その手の物を捨てる音が微かに聞こえる。
「私たちが今確認したいのは、それが本当に悪事であるのか確かめることですわ」

乃愛が緊張感を漂わせると、彩音が
「こっちよ、乃愛ちゃん」
と囁く。乃愛はもう一度、店長の様子を確認すると、彼が隠れた瞬間に後を追った。

「ちょっと、ここに隠れて」
乃愛は彩音とともに小さな陰に身を潜める。
「動かないで…」

察知した店長は、何かを暗闇に隠そうとしているように見えた。乃愛たちはその様子をじっと見つめ、彼が何を思っているのか理解しようとした。

数分後、ようやく彼は立ち去り、後には混乱した気持ちが残った。二人は相互に確認し合うと、今度は自らの興味を確認するために出てきた。

「一体、何をしていたのかしら?」
乃愛は口を開くと、すぐに足元を見ると、手がかりが隠されているのを見逃さなかった。

「これ、あなたの持っているもの?」
彩音の声が響く。

乃愛はその瞬間、何か異常な気配を感じた。それはまさに、手がかりだった。目の前の小さな袋には
「注意」
を呼びかける言葉が書かれていた。それを見つけ出した彼女たちは次になにをすべきか、考え始めた。

「彩音さん、これを持って逃げないと…」
乃愛は小袋を手に取り、すぐにその場を立ち去ることにした。

その後、二人は手がかりを掴み、店長の怪しい言動を追跡するための論理を組み立てることを決意した。手に入れた情報を基に、学校内の情報を調べることになる。何が真実なのか、口に出す言葉を慎重に選び、一歩ずつ進んで行くのだった。

やがて、倍増した証拠が彼女たちを導いた。そして明らかになったのは、バイト先の店長が注目を集めるためだけに、現場に事故を仕掛けていたという事実だった。動機は虚栄心から来るただの目立ちたがり屋だったのだ。

乃愛と彩音は全容が明らかになるにつれ、彼の思惑を見抜くことができた。事件は決して偶然ではなく、彼の手によって仕掛けられたものであり、周囲を巻き込んだ混乱の原因は店長の欲望だったのだ。彼の顔に隠された真実が、彼の行動にあらわれていた。

最後に、警察に通報し、事態を収拾することに成功した乃愛と彩音。彼女たちの活躍で事件は解決し、キャンパスは平和を取り戻した。乃愛は陰で操られていた事件の謎を解明したことで、自信をさらに深め、彩音と共に歩む冒険の日々を心待ちにしていた。

「これからも、どれだけの不思議な事件を解決していくのかしら」
乃愛は静かに口元をほころばせる。そして、彩音がしっかりと彼女の隣にいることを感じながら、2人の未来に思いを馳せるのだった。
「一緒に、これからもたくさんの謎を解き明かしていきましょう」
彩音が元気よく合いの手を入れた。

その夢の続きを追いかけるように、乃愛は静かに呟く。
「次の事件を待ち受けているものを楽しみにしましょう」