第33話 「生存のための選択肢」

麗司は背筋を伸ばし、周囲を再度確認しつつ、行動の準備を進めることにした。立ち上がった彼の心の中は複雑だった。猫から感じた小さな希望とは裏腹に、外の世界は過酷で、理不尽なものであることを彼は知っている。自分の生存を確かなものにするために、行動を起こしていくしかない。

「まずは荷物を整理しないと」
と、彼は小さくつぶやいた。リュックを広げ、必要な物とそうでない物を分別していく。冷静に必要なものを見極めることが今の彼に与えられた課題だ。昨日手に入れたカップ麺と缶詰を重点的にチェックする。消費期限が近いものから優先して使おうと心に決めた。毎日少しずつ吟味して食料を管理する必要がある。こまめに確認することで、明日を生き抜くための計画が立てられる。

「水は大丈夫だ、しばらくこれでやり過ごせるだろう」
と、彼は手元のペットボトルを確認した。これから行くであろう釣り場や川を考慮し、彼は水の確保を次の目標にしようと心に決めた。マンション内の水道が停止している以上、外で水を得るしか方法はない。

次に頭に浮かんだのは保存食だった。彼は過去の買い出しから持ち帰った缶詰や乾燥食品をリュックに戻し、もう一度その内容を吟味する。
「どれも廃棄するには忍びない」
と思いつつ、残しておく必要があるものを整理して再びリュックに収めた。

「それから武器だ」
とつぶやき、手元に置いた小さなナイフとハンマーを見つめ直す。その二つが唯一の武器であり、頼りだ。不安がよぎるものの、身を守るためには持っていくべきだと自分に言い聞かせながら、リュックの一角へと押し込み、ファスナーを閉じる。

「次は、出発準備をする」
と心を決め、彼は考えた。周囲の状況を確認しながら、自分の進むべき道筋を思い描く。動き始める前に、細心の注意を払う必要がある。どこにゾンビや他の危険な生き物が潜んでいるかわからない。勇気を奮い起こして行動を起こさなければならないが、同時に冷静さを失わず、周囲をしっかりと観察しなければならない。

麗司は、暗い路地の入り口を見つめる。そこから進む先には、かつての街並みがあり、彼が知っている世界はすっかり崩れ去ってしまった。
「人がいた頃は、こんなにも賑わっていたのに…」
思わず感慨に耽るが、そんな余裕はない。人が住むことの不可能な世界で、今はただ生き延びるための行動を優先する。

「まず、道を選ぼう」
と彼は呟いた。通りの真ん中を避け、移動しやすい脇道を探る。足音を立てずに進むためには、必要なルートを見つけるのおのけが重要だ。昼間の街の様子を観察していると、周囲には車や物が散乱している。破壊されたビルの合間に身を潜め、少しずつ進んでいく。

彼は猫の存在を思い出し、
「あの猫がどこに行ったか」
と考えつつ、あの生きる力を持つ存在の姿を探したが、やはり猫は見当たらない。しかし、心の中で彼は新たな知恵を得た。この猫が周囲の動物たちを警戒させてくれる可能性がある。それを念頭に置きながら、少しでも安心できる状態で行動を起こそうと決めた。

人々の姿が消えた街中で、麗司はどんどん孤独感を増していく。物質的な豊かさではなく、心の支えとなる仲間の存在のほうが、どれほど大切だったかを痛感する。今は誰もいない、彼一人きりの世界で、しかし彼はその沈黙の中でじっと耐えなければならない。自らの力で生き残ること、耐え続けること。それが運命となった彼の使命だ。

「近づいてきた音に気を付けなければ」
と心中で注意を促し、麗司は再びリュックを背負い、静かに前進を始める。通りには廃墟と化した建物が立ち並び、以前の面影を微かに残している。彼は背後に配慮しながら、次の目的地を目指して進んでいく。

進むにつれ、彼は様々な音に耳をすませる。時折聞こえる物音には注意が必要だ。
「周囲の動物やゾンビの襲来を警戒しないといけない」
との意識を常に持つ。アスファルトの上に落ちた枝を踏む音にさえ敏感になる。すべての音が脅威となり得ることを、彼は身をもって知っている。心臓の鼓動はますます速さを増し、緊張感が彼を包む。

街を進む過程で、彼は以前通っていたスーパーへの道を思い出し、そこを目指してゆっくりと進む姿勢を維持しつつ、無駄に音を立てないようにと心掛けた。
「少しでも物を落としたりして音を立てるわけにはいかない」
と自分に警告しながら、静かに歩を進める。

ついに目的のスーパーに到達した。外観は完全に崩れ去り、入り口も障害物でふさがれている。彼は一瞬たじろぐものの、周囲の様子を気にしつつ、側面の小さな出入り口から中に入ることにした。
「おそらく、他の者の視線はここの入口に集中しているはずだ」
と考え、冷静さを保ちながら進む。

中に入ると、店内は銃撃後のように荒れ果てていた。陳列棚は崩れ、散乱した商品がそこかしこに見受けられる。
「うわ、ひどい状況だ」
と思いつつ、彼は冷静さを保とうと努めた。数日前の買い出しと大きく異なる光景に、彼は驚きを禁じ得なかった。そして、どの棚にどんな食料が残っているかを確認しつつ、慎重にページをめくるように歩み寄っていく。

「まず目当ては缶詰、できるだけ多く集めるべきだ」
と自分に言い聞かせ、無駄に音を立てないように注意深く進む。手に触れる商品に心を躍らせながら、何が役立つか探す。優先して動かさなければならないものが、意識の中で明確になっていく。

缶詰を手にした瞬間、何かの物音がその耳に届いた。麗司の心臓が一瞬止まる。
「まさかゾンビか?」
立ち止まり、ザワザワとした音に耳を澄ませる。周りを見回し、恐怖が心を支配する前に静かにする必要があった。恐る恐る移動し、耳を澄ませながら生存をかけて行動する。

「沈黙を貫かなければ」
と彼は思う。周囲の動きを視界に捉えつつ、ゾンビの気配が近い場合は急いで隠れようと決意する。冷静に生き残る術を模索しながら、一歩一歩注意深く足を進め、周囲の音の起源を突き止めるための感覚を研ぎ澄ませた。

再び目の前にある缶詰の山に目を戻し、
「動け、動け」
と自分を鼓舞する。少しでもこの世界で生き抜くため、彼は声を上げないようにすべての手段を講じる。どんな場面でも、冷静でいることが何よりも重要だと自覚しなければならない。難しい環境の中でこの瞬間がどれほど貴重なものか、彼は実感していた。生き残るために選び取った選択が、彼を次の目標へと導くのである。

周囲の恐怖に目を向けることで、彼は次の目的を果たす意義を肝に銘じながら、己の力を信じて進むのだ。生き残るための工夫を重ねて、彼は一歩ずつ現実を克服し続けるのである。