私の目の前に座る彼、村上和真くんは、今日もお人好しの笑顔を浮かべていた。ふんわりとしたミディアムヘアが日差しを受けてキラキラと輝いている。彼の優しい笑顔を見るたびに、私の心臓はドキドキと音を立てる。彼の存在は、私の生活の全てと言っても過言ではない。だけど、今日は特別な日だ。私たちのクラスの卒業アルバム用の写真選びの日だから。
「黒川、どの写真がいいと思う?」
彼が私の方に振り向く。彼の視線は真剣だった。でも、その真剣さがとても無邪気で、思わず心が和む。今日は彼をもっと近くに感じられるチャンスだ。卒業アルバムのために選ぶ写真は、私たちの高校生活の思い出が詰まった大切なもの。だから、真剣に選びたいのに、どうしても彼のことを考えてしまう。
「ですわ、和真くん。この写真はいかがですか?」
私が指差したのは、私たちのクラスメートが集まって笑っている写真だった。みんなが楽しそうに笑っている姿は、見ているだけで幸せな気持ちになる。だけど、私の心の中にあるのは、彼だけ。彼の笑顔がもっと見たい。彼の隣にいつもいたい。
「うん、いいかも。黒川が選ぶなら、間違いないよ」
彼は私の意見を素直に受け入れてくれる。そんな彼に、私はますますのめり込んでしまう。私の心の声が聞こえるだろうか。彼にもっと近づきたい、私の気持ちを知ってほしい。でも、どうやって伝えればいいのかわからない。彼は天然すぎて、私の想いを気づいてくれない。
「でも、この写真、黒川の顔がちょっと大きく見えるかな…。もっと横から撮っておけばよかったかもね」
彼がすっとその写真を指さし、冗談混じりに言った言葉に、ハッとした。私の顔が大きいだなんて、何を言っているのかしら…。でも、彼がそんなふうに思ってるわけじゃない、それはただの自然な感想よね。
「いえ、そんなことありませんわ。和真くんの方が良い笑顔なので、この写真は問題ありません!」
私は強く否定した。自分の顔がどう思われようと、彼と一緒にいることが全てよ。だが、彼はただ笑って受け流しているだけだ。
「ありがとう。でも、まるでお嬢様みたいだね、黒川は」
「そうですわ?和真くんこそ、お人好しで優しい騎士のようですわ」
お互いに褒め合う場面だけれど、その言葉の裏には、彼への私の独占欲が垣間見えたかもしれない。彼はその気持ちを理解できていないけれど、私は彼を誰にも渡さない覚悟がある。私の心の中には、彼を守るためなら何でもするという強い決意が秘められている。
気がつくと、私たちは次の写真に目を移していた。彼が指差したのは、私が料理クラブで作ったお弁当の写真。私の手料理が映えているこの写真は、自分の秘めた才能を見せつける絶好の機会だ。私の料理がもっと彼に喜ばれるように、どれだけ努力をしているか知ってほしい、この想いが強くなった瞬間だ。
「これ、黒川の作ったお弁当なんだ!」
彼が嬉しそうに言うので、私は思わず胸が高鳴る。彼はもちろん知っている。私が毎日、彼のためだけにお弁当を作っていることを。だけど、私の内心は複雑だった。
「彼にしっかり伝わっているのだろうか…」
そんな不安が、ふわっと心を占める。
「和真くん、どう?美味しそうに見えるかしら?」
私の目がキラキラと輝く。彼が美味しそうに見えなかったらどうしよう、なんて不安がよぎる。でも、彼の頬がふわっと紅くなるのを見ると、全てが報われたような気がする。
「うん、絶対に美味しいだろうな。このお弁当があるから、学校が楽しみになる!」
彼の言葉に、私は思わず心の底から笑った。彼には気づいていないけれど、私は毎日彼のために心を込めて作っている。その想いが、何とか彼に届いている気がする。お弁当の写真が卒業アルバムに載ることで、彼に私の存在をもっと知られたらいいな、と考えてしまった。
「では、この写真を採用しましょう!」
私は笑顔で決定権を得た気持ちで言った。その瞬間、彼はふっと考え込んだようだった。私はいつも彼の気持ちを優先しすぎてしまうのかしら。でも、このお弁当の美味しさは、私の想いをしっかり伝えてくれると思っている。
その後、しばらく写真を選ぶ作業が続いた。彼と私は笑い合ったり、いい写真を見つけようと協力した。そんな時間の中で、彼の天然な発言に何度も驚かされた。
「お、これはいい!みんな楽しく見えるね。黒川はいつもこんな感じなんだね」
「え、和真くん、この時私が一番笑ってたのに気づいていないんですか?」
彼はそんな私の言葉に首をかしげたまま、別の写真を指差して、
「でもこっちの方が面白いよ!」
と無邪気に笑っている。私の恋心は、彼に対する嫉妬と愛情が混ざり合いながら、ますます強くなっていく。彼に振り向いてもらうためには、もっとアピールしなければならないのに、彼の天然さに振り回されるばかりだ。
そうやって楽しく進んでいると、友人たちが寄ってきた。
「おーい、黒川、村上!写真の選定進んでる?」
友人の一人が尋ねてくる。私はドキッとした。彼の天然さを隠しておくためにも、彼との距離が近づくことが恥ずかしい。だけど、彼は笑って優しく答える。
「うん、黒川のお弁当の写真が決定。黒川って料理上手だよね!」
「そうだね、私は食べたい!」
友人たちが盛り上がった瞬間、私はその場から少し離れてしまおうかと考えた。彼の目が私を向いていることが、恥ずかしくて仕方なかった。だけど、一瞬でも彼が私のことを意識してくれるなら、その瞬間、私の心は満たされる。
「だけど、和真くんが一番魅力的に見える写真を選びたいのですわ」
私は小声で彼に投げかけた。彼がどう反応するのか、期待と同時にドキドキしている。すると、彼は薄く笑みを浮かべながら、
「黒川だから、どんなのも魅力的だと思うよ」
と返してくれた。
その言葉が、私の心に深く響いた。彼が何気なく言った言葉が、私にとっての宝物のように感じる。彼の言葉を支えに、もっと積極的に自分の気持ちを伝えられる日が来るのだと信じている。この小さな一歩が、私たちの関係に素晴らしい変化をもたらしてくれるはずだ。
そうして、私たちの卒業アルバム用の写真選びは続き、お互いの笑顔で満たされた時間が流れていった。そして、彼への恋心がますます深まる中で、私は彼に向かって再び決意を固めた。
「こんなに素敵な彼に、絶対に思いを届けたい」
その想いを胸に、私は卒業アルバムが完成するその日を待ち望むことにした。