麗司は慎重に周囲を観察しつつ、深呼吸を繰り返していた。冷たい空気が彼の肺に流れ込み、緊張した心を少しだけ和らげてくれる。それでも、彼の心臓はまだ速く鼓動している。目の前に現れたゾンビの影は、彼に生存の脅威を忘れさせることを許さなかった。
ゾンビはうろうろと倉庫の中を徘徊しながら、彼に向かって来る様子はなかったが、麗司は何としても彼らに気付かれるわけにはいかない。周囲の静けさは彼にとって不安材料だ。暗闇の中で、音を立てることは、彼の命を脅かす関わりになる。生き残るためには、動かざるを得ない。
「ここでどれだけ静かにしていられるかが、選択の分かれ道だ」
と自分に言い聞かせ、ゆっくりと別の隅へと移動した。影の中で隠れる彼は、不安を感じつつも必死に生存のための次の行動を考える。今は、物資をできるだけ確保しなければならない。彼の心の声は、恐怖心の中に冷静さを保つことの重要性を示していた。
しばらく動けずにいたが、状況を把握しなければならないと彼は悟った。倉庫の奥に目を向けると、薄暗い明かりがかすかに漏れ出している。そこに出入り口があるかもしれない。もしかすると、この状況から抜け出せるかもしれないという希望を抱き、彼は最小限の音を立てるようにゆっくりと歩を進めた。
「無駄な音を立てるな」
と心の中で呟き、彼は注意深く倉庫の奥に進み続ける。冷静になりきれない思いが彼の頭の中を占めていたが、それでも彼は大きく息を吸い込み、視界のどこかにその扉を見逃さないよう努力していた。
数分が経過し、ゾンビの影が薄れていくのを待っていると、彼は急に前方の棚の下から音を耳にした。その音は突然のことで耳に飛び込んできたが、意識を集中させるとただの金属音のようだった。手にしたリュックの中に持っている物確保できたのは誇りではあったが、この音に気を取られてはいけない。妙に心に引っかかる音である。
「何かに気を取られないようにしないと」
麗司は口に出さず自分に気を張った。だが、ゾンビが音に反応するのは間違いない。彼らの動きは音に向かうことしか考えていない。それは彼の生活には必要不可欠な確認事項だった。これがいつも脳裏をよぎる不安の根っこであった。
時間は無限ではなく、他に何か物資を見つけなければならなかった。麗司はまた深呼吸をし、さらに慎重に進む。
「もう少し、もう少しだ。必ず道は開ける」
と自分に言い聞かせた。彼は生存のための努力を怠らず、冷静な判断力が求められる。彼の目は、倉庫内の宝のような物資を探し続けるのだった。
ようやく彼は目指していた場所にたどり着いた。さらに進むと、少し開いた空間に明かりが漏れていることに気づく。淡い光に引き寄せられるように心が躍る。そこに出入り口があるのであれば、脱出への可能性が開ける。勇気を振り絞り、音を立てないようにさらに進もうとした。
だが、進むにつれ、視界が暗くなった瞬間、新たな影が彼の視界に入ってきた。今度は一体、何者なのか。キラリと光った目が彼を捉え、まるで獲物を狙う捕食者を連想させる。麗司の心臓は再び速く鼓動し始めた。
「まずい…」
逃げ場がない。彼は暗がりに身をひそめ、その姿を見極めるしかなかった。
それは、その倉庫の奥の壁の陰に隠れたゾンビだった。彼は音を立てないように、無理やり呼吸を抑える。何とかこの状況から逃れられる道を探さなければならない。人間性を失い、ただ生きようとしていたゾンビは、一呼吸でその場を通り過ぎた。振り返り、動く気配もなく不気味に去っていく。
心の中で酸素を必死に求めるが、今はそれを忘れなければ。彼は引き続き注意深く、自由な瞬間を待つことにした。すべてが危険に満ちているが、最も近い選択肢をしっかり探るしかなかった。今もって生き延びていることを忘れずに、麗司は一歩一歩前に進む。
ゾンビが去った後、少し安心した麗司は、開けた空間の詳細が気になった。何かしらの物資が散乱している様子を目にし、彼は希望が掻き立てられる。暗い空間の中には、今まで見たことのないような物が落ちている。少し進み、暗闇の中に慎重に歩を進めていく。
その空間には、果たして自分に役立つものがあるのか。それを試すための時間が、彼には残り少なかった。彼は周囲を浮ついた心持ちで観察し、
「さあ、何かあるのか?」
と自分に尋ねるようにその場に膝をついた。
周囲を見渡すと、ある物体が目に留まる。それは壊れてはいるが、雨がじわりと押し寄せそうに無造作に立てかけられている木のテーブルだった。その上には、手にフィットする道具が幾つか散らばっている。
「これなら使えるかもしれない」
と彼は小さく呟き、必要そうなものを手に取ることにした。
一つ目の道具は、いくらか変形しているとはいえ、頑丈に見えるハンマーだった。その重みを感じ、自らの手に握りしめる。二つ目は、小さなナイフだ。使おうと思えば何でもできる道具としての実力があることを期待した。今後のサバイバルには必ず役立つだろう。
「この小さな武器たち、なんとかして使いこなさなきゃな」
と彼は強く心に誓った。
だが、この倉庫はそれだけでは終わらなかった。リュックサックに詰め込んだ食料に加え、道具を手にしたら生存は一歩近づく。しかし、ここで彼が一時の幸運に酔いしれることは許されなかった。何かの拍子に不意打ちを食らった時、彼が背後に目を向ける暇もないかもしれないからだ。麗司は心を引き締め、一秒でも早くこの状況から抜け出したいと思うのだった。
その瞬間、彼の背筋に冷たいものが走る。呼吸が乱れ、思わず動揺してしまった。ギリギリのところで冷静ではなくなることに恐怖すら感じ始めていた。
「冷静になれ、絶対に」
口に出さず呟くことで自分を落ち着けようとした。しかし、次にどのタイミングでここからそのまま先へと進むべきか、悩み続けている。まさに決断が全てを左右する極限の状況に、彼は自身を置かれているのだ。
「行くしかない」
と常に考えている。まだ物は揃っている、次は考え込んでいる暇がない。生存をかけ、意志を固め、ひと踏み出す時だとその瞬間を待つ。わずかに躊躇するが、彼は暗い空間へと飛び込むことに決めた。
果たして何が待ち受けているのか。恐れず進み続けなくてはいけない。自分の向き合う不安に抗いながら、麗司は再び歩き出すのであった。
彼は求めた明日を信じていた。しかし、その信じる力が真実となるか、いやというほど次の選択肢を示していた。この異常な状況の中で、彼の道は常に選択肢の連続だった。自分が何を選ぶかによって、明日生き残れるかそうでないかが決まる運命だった。
じっくりと彼はそれを心に留めつつ、その先がどうなるのかを見据え、逃げることなくその場を思考し続けるのだった。どんな道が待っていようとも、生存のためには進むしか道はない。その意志を持って、彼は倉庫を後にしようと足を踏み出した。
周囲は無音だが、心の奥底には恐怖が渦巻いている。真剣な気持ちで自らを鼓舞し、次にどのような試練が待ち受けているかが問題だった。麗司は自らの運命を背負いながら新たな道へと進んで行くのだった。次に何があるのか、その不明さに向き合い続ける彼は、時が経つにつれ、次なる一歩へと向かう決意を固めるのだった。