第30話 「温室での挑戦と工夫」

青志は温室の中で、一通りの作業を終えた後、少しばかりの達成感を味わっていた。外の吹雪がその実態をより一層際立たせるなか、彼は冷静に次の準備に取り掛かる決意を固め始めた。
「この生活を少しでも効率よく、快適に過ごすためには、まだまだ工夫が必要だ」
と、彼は考えを巡らせた。

次に取り組むべき課題は、暖房の強化だった。夜になると、一層冷え込みが厳しくなり、青志の身体も次第に冷たくなっていく。彼はストーブを頼りにしているが、その燃料が枯渇したときのことを思うと、背筋が寒くなる思いがする。青志はただ闇雲に暖房を強化するのではなく、再利用可能な素材を活用し、より効果的な暖房方法の検討を始めることにした。

まず、古いバスタオルを再利用することを思いついた。
「これを使って、ストーブの周りに保温効果を持たせれば、熱が逃げるのを防げるかもしれない」
と思った青志は、手早く古いタオルを取り出し、ストーブの周囲に設置する計画を立てた。

彼はストーブの熱を効率的に反射させるために、タオルを壁のように配置していく。タオルの厚みが熱の保持に貢献し、効率よく温もりを広げることができるかを考えながら、青志は慎重に作業を進めた。まずはストーブの側面を囲む形でタオルを配置し、次に後ろ側にも同様に設置する。こうすることで、熱が逃げる隙間を少しでも防げるだろうと彼は期待していた。

作業に没頭する青志の心の中には、果たしてこれが本当にうまくいくのかという不安があった。しかし、その不安を乗り越え、背後から押し寄せる冷気に対抗するための行動を続けることで、自分自身を奮い立たせる何かが彼の心に根付いていた。
「とにかく、やってみるしかない。失敗したら、その時考えればいい」
と自分に言い聞かせる。

タオルを全て配置し終わると、青志はストーブの点火を試みた。最初は緊張の瞬間だった。
「もし燃えないとか、逆に変な匂いがするかも」
と恐れつつも、彼は燃えることを信じて手をかける。周囲が静まり返り、彼が点火したその瞬間、ストーブが小さな炎を上げ始めた。ほんのりとした暖かさが空間に広がる。青志は安堵する。
「これで少しは寒さが和らいでくれるだろう」

ストーブの周りは、厚手のタオルによってさながら小さなサウナのような空間に変わった。
「これだ、もっとやってみよう」
と心躍る思いで青志は次の準備を考える。彼は温かな空間を維持するために、さらなる工夫が必要だと感じた。蓄熱の仕組みを強化するため、周囲の壁や床にできるだけ日々集めた不要な布や衣類を張り巡らせることに思い至り、作業を続けることにした。

温室の隅から古い衣類を探し出し、それを床に敷き詰める作業に取り掛かる。倉庫の中をかき分け、使える素材を確保しては、敷き詰める。衣類を敷くたびに、彼の心には少しずつ安心感が生まれていく。気温が下がり、床の冷たさが気になる青志にとって、この一手がどれほどの価値を持つかはとても重要だった。

「人間は一人じゃ生きていけない。自分がいるのは、こうして支えてくれる環境があってこそだ」
と、彼は作業を通じて自然と感じ入る。衣類をたくさん重ねることで、冷気を遮断し、かつ自分自身も守れる空間が生まれていく。

作業を重ねるごとに、青志の中の厳しい孤独感が少しずつ薄れていくのを感じていた。どんなに孤独な状況であっても、こうして自分の手で生活を支えているという実感が、彼に前向きなエネルギーを与えていたのだ。
「これが生きるということだ」
と。

そんな思いが胸に広がるなか、彼はさらなる工夫を考える。寒さから身を守るためには、上下の温度差を利用することができるのではないかと考えた。
「上を高く、下を逃がさないように」
と、さらに思いを巡らせる。寝るスペースには、大きな衣類をかぶせることで、温もりを包み込むことができる場所を作る必要がある。

再び古い衣類に目を向け、よく見るとなかなか厚手のものが数種類見受けられる。
「これを使えば、上に何層も重ねることができる」
と青志は感じ取り、急いで運んでくることにした。これを重ねて持っているアウターと一緒に使えば、夜の寒さに対抗できるかもしれない。

彼は手際よく衣類を把握し、温室の片隅に配置する。まずは寝床を作るため、穏やかな衣類を中心に、ぐるぐると円状に敷きつめる。
「この上に横になれば、上からの冷気が直接肌に当たることはないはずだ」
と、青志の心には期待が広がっていた。

さらに、トンネルのような形状を持たせられるように、中心に向かって少し盛り上がるように衣類を配置していく。こうすることで、体温が逃げにくくなり、寝るときに入る空間は更に温もりに包まれるのだと青志は考えていた。
「この工夫によって、無駄に体を冷やすことはないだろう」
と。

作業がひと段落した後、彼はその成果を見つめて満足げに微笑む。
「これで今晩はゆっくり休めそうだ」
と、自分の作り上げた空間に感謝する気持ちが生まれると同時に、これに至るまでの努力が実を結んだことを実感していた。

「冷え込む夜に暖かく過ごすことができる、これが自分の力だ」
と、自分の力強さに気づいた青志は、安堵の表情を浮かべた。生活の中で自分ができること、何ができるかを真剣に考え、少しずつでもその考えを実行に移すことで、彼は新たな道を切り開いていくのだ。

そして、今度は薪の準備を進めることにした。
「燃料が無くなる前に、補充しておかねば」
と、青志は長い間使っていなかった古いスコップを取り、外に取りに行くことに決めた。温室から出て、周囲の雪を掘り返しながら、持ち運びやすいように良い薪を探し始める。

冷たさが瞬時に体を包み込む感触がしたが、
「耐えなければならない」
と自分に言い聞かせた。薪自体は周囲に豊富に存在していたが、雪で埋もれているため、探し出すには少し苦労がかかる。手先が冷たくなってくる中で、気を緩めずに目を凝らして、周囲を見渡す。少し大きな枝や細かな薪を探して、何本か拾い集めていく。

「今晩の暖房用に、必要なだけ持って帰らなければ」
と心を引き締め、青志は数本の薪を手に取った。ふと、目を移すと、やや大きめの木の幹が雪に埋もれているのを見つけた。
「これは使えるかもしれない」
と思い、青志はそちらに向かうことにした。

凍りつく指先で頑張り、スコップを突き立ててその周辺を掘り進める。
「これが掘り出せれば、しばらく安心できるかもしれない」
と期待を高めながら、少しずつ雪をかき分けていく。想像以上の手間がかかっているが、その表情はどこか真剣だった。

やがて、幹が姿を現してくる。青志は興奮した気持ちを抱きながら、幹をしっかりと取り上げた。
「これを持ち帰れば、今晩の暖房が安心できる」
そう思うが、幹は予想外に重く、手助けなしでは運ぶのが厳しいことに気づく。苦戦しながら何とか拾い上げ、懸命に運び始めた。

懸命に運び続け、ようやく温室の扉に到達したとき、彼は力を振り絞ってその幹を持ち上げた。
「無理をすると息が上がるな」
と思いながら、スコップと一緒に薪を温室の中へと持ち込んだ。

「ああ、しっかりと燃やさなきゃ、明日が大変なことになるか」
と棚へ置き、青志は安堵の表情を浮かべる。やがて温室内のストーブを見上げる。
「この生活を支えるために、まだまだ工夫しないといけないな」
と、彼の思考は再び生活の質を向上させることに向けられた。

今夜の準備は万全だが、明日もまた何をするべきか、何が必要かを考えなくてはならない。
「小さな工夫が大切なんだ」
と心に刻み、青志は昼の光が消えていく中、次なる目標を見据える。孤独だけれども、前向きな気持ちで日々の適応を続けてゆくこと、そして挑戦を楽しむことが、彼の持ち味なのだ。

夜が深まり、温室内の小さな空間では青志の心も少しずつ安らいでいく。そして彼は再び、新たな挑戦へと向かう準備を進める。