第30話 「探偵コンビの挫折と真実の追求」

ある晴れた土曜日の午後。久遠乃愛は、静かな図書館の一角で愛用の文庫本に目を通していた。その合間に、心理学の資料も広げ、思考にふけりながら、冴えた頭脳を働かせていると、ふと心地よい声が響いてきた。

「乃愛ちゃん、今度の事件どうするの?」

その声は、乃愛の幼馴染であり、忠実な相棒である雪村彩音だった。明るい茶髪のボブカットと元気な笑顔が印象的な彩音は、いつも探偵業に付き合ってくれる大切な友人だ。

「彩音さん、ちょうど考えていたところですわ」

乃愛は小さく微笑んだ。自分の思考が進んでいることを彩音に伝えたかった。彼女は、ふとテーブルの上に目を向け、先日依頼されていた事件の詳細を思い出した。

「実は、宗教団体の儀式の最中に、奇妙な事件が起きたそうですの」

彩音の目が瞬時に輝いた。
「それって、あのテーマパークの休憩所での事件よね?なんでも小包が届いて、それが原因だとか」

「そうですわ。依頼が入った理由はそこにありますの。昨日届いたというその謎の小包の中身が気になりますわ」

「なるほど、早速行ってみましょうか」

二人は意気揚々と、事件の現場へ向かうことにした。テーマパークの入口に着くと、賑やかな雰囲気が広がっていた。多くの子供たちの笑顔や、大人たちの楽しそうな声など、まさにレジャーの中心地。だが、その喧騒とは裏腹に、乃愛と彩音は犯行現場となった休憩所に向かうために急いだ。

休憩所に着くと、すぐに周囲の雰囲気が変わった。薄暗い室内に、不穏な空気が満ちていた。目の前には、倒れた一人の男がいた。彼の近くには、小包の破片が散らばっていた。

「この方が被害者ですかしら?」

乃愛は冷静に現場を観察した。被害者は宗教団体の信者として、儀式の参加者の一人だった。
「色白な肌に、装飾品が目立ちますわね」
と彼女は付け加えた。

「警察もまだ来てないみたいだから、私たちで手がかりを探すしかないね」

彩音は元気いっぱいに言った。彼女は周囲を見渡しながら、まるで探偵のような足取りで動き始めた。乃愛も観察の目を光らせた。被害者の持ち物や周囲の状況が、彼らの探偵活動を左右するはずだ。

「この小包の中に何が入っていたのか、他の人に聞いてみようと思うわ。待っててね、乃愛ちゃん」

彩音はそう言うと、急いで他の信者たちに話を聞きに行った。乃愛は休憩所の周辺をじっくり観察することにした。

壁際に立てかけられていた不気味な装飾品や、事故現場となっていた地面には、乾いた血が未だに残っている。彼女は一つ一つの要素を冷静に分析した。おかしな点はないか、過去の事件に似た痕跡がないか。

すると、彼女の目にとまったのは小包の破片の中にあった、血のついた紙くずだった。
「不吉ですわね、これはただの紙くずのようですけれど、内容が気になりますわ…」

しばらく考え込み、乃愛はその内容を手に入れるため、彩音の行動を待つことにした。しばらくして、彩音が他の信者たちと戻ってきた。

「乃愛ちゃん、聞いてきたことがあるよ!」

彩音は興奮気味に言う。
「この休憩所の近くで、昨日も見かけたという作業員がいるらしいの。彼が小包を運んでいるのを見た人もいたって!」

「作業員…?この宗教団体とは無関係な人たちですのに、何故かしら。彼らの行動に何か理由が?」

乃愛は考え込んだ。彼らはテーマパークでの建設作業を行うために派遣された人々だった。その中に、何が起きたのかを考察することが必要だった。

「よし、まずはその作業員に話を聞いてみましょう」

乃愛は彩音に言った。彼女たちは、建設現場の方へと足を運んだ。

作業員たちは、休憩所からそう遠くない場所で働いていた。陽射しが強く、直射日光の下で黙々と作業を続けていた。

「すみません、ちょっとお話ししてもよろしいですか?」

乃愛が声をかけると、数人の作業員がこちらに振り向いた。その表情には緊張が漂っていた。

「ああ、何だ?俺たちは今忙しいんだけど」

一人の男が少し不機嫌そうに答えた。

「実は、昨夜、休憩所で起きた事件についてお聞きしたいのですの。小包を見た方はいらっしゃいませんか?」

その言葉に作業員たちは一瞬固まったが、しばらくして一人の若い男性が口を開いた。
「ああ、俺が見た。あの頃、小包が運ばれるのを見たよ。中身は…わからない。急いでいる様子で、誰かに渡したみたいだった」

「それって、誰に渡したの?」

乃愛の問いかけに、男性は顔をしかめた。
「それが…見えなかったんだ。気づいたときにはもう遠くに行っちまってた」

思い出しながら話す彼の様子に、乃愛は警戒心を持ち始めた。作業員たちの中には、何か別の事情があるのではと直感したのだ。

「他に、昨日の夜に作業していた方はいらっしゃいますか?」

乃愛は続けて尋ねる。そんな彼女に、他の作業員たちがざわめいた。

「いや、実はあの日は特に人手が少なかった。ただ、オープン前の準備があったから、一部の人間だけがここで作業してた」
と、他の男が声を上げた。

乃愛はこの状況に何かひっかかるものを感じた。
「何かその作業員の中で、他と違う行動を取った人はいないかしら?」

話を聞いていると、なぜか一人の作業員に目が留まった。その男は、周りから少し外れた場所で、静かに身をかがめていた。彼の表情には、不自然さが見受けられた。

「一体、何を考えているのかしら…」
乃愛は心の中で考えた。

「彩音さん、あの方に話を聞いてみましょう」

乃愛がその男の方を指さすと、彩音は頷いた。二人はその男性の元へと歩み寄った。

「すみません、一つ聞いてもいいですか?」

乃愛は問いかける。

「ああ、何だ?」

男は不機嫌そうに応じた。

「昨夜、休憩所で運ばれた小包を見た方がいらっしゃると聞いたのですが、あなたは覚えていらっしゃいませんか?」

男は反応を見せた。
「自分はその様子を見なかった。ただ、昨日の仕事の後、急に体調を崩してしまったから気づかなかっただけだ」

「体調を崩した?」

乃愛はその言葉に注目した。何か不自然な点があるのかもしれないと直感する。

「実は、体調が崩れる前、特に何か食べたりしたことはありませんでしたか?」

男は一瞬黙って考え込んだ。
「まあ、変わった料理を出す屋台で何か口にした覚えがあるな…」

「それが、どのような料理だったか教えていただけますか?」

「んー、確かに宗教的なもので、特に特別なものでしたが…」

その言葉には、何か引っかかりを感じた。乃愛はさらに質問を続けた。
「その料理から異常があったのかしら?何か気にしている点は?」

男は動揺している。ただならぬ様子が感じ取れた。
「…そういや、その中にはちょっと変な食材が使われていたかもしれない。本当に、何か通りすがりの人間からの目移りだったんだ。それがあんなことになったとは…」

乃愛はその発言に注目した。
「どうやら、無自覚のうちに何か間違った選択をし、そして急激に事態が変わってしまったのかもしれませんわ」

色々な要素が絡まり合い、展開している状況が頭の中を巡る。その考えに集中し、乃愛は思わず手で頬をつねった。
「ひょっとすると、そう考えると善意を持って行動した者が、逆に悲劇を引き起こす可能性があるってことですの?」

彩音も理解したかのように同意をし、目を爛々と輝かせた。

「でも、私たちはこの糸口を手掛かりに、まったく異なる視点から見ていく必要があるわね」

「そうですわ。あの小包を運んできた人は、間違った善意から行動した可能性が…」

その言葉は、乃愛の頭の中のすべてのピースを組み立てるきっかけとなった。様々な要素を統合し、次第に全容が浮かび上がってきた。

「私の考えた推理に続けて、一つ報告がありますの。実は、被害者の身元を特定した結果、彼は聖職者としての使命を持ち、その善意から集められた食材を利用していたということがわかりました」

彩音は目を輝かせた。
「それって、被害者が食べるものの中で異常なものがあったのかも…!」

それに気づいた乃愛は、早速行動を起こした。彼女はその作業員の話を聞き、自身の推理をもとに物事を進めるために動き始めた。
「調べる必要がありますわ。まずはその食材がどこから来たのか、追跡してみましょう」

数週間後、乃愛と彩音は、事件の背後にある真実を洗い出すため、手がかりを辿った。宗教団体の食材供給者や購入先を調べ、何が起こったのかを突き止めた。その中で、信者が作業していることや、供給者側の異常点も見つけた。

ある日、乃愛は相棒に言った。
「この問題、解決の糸口が見えてきましたわ。この作業員たちは、実は食材とは全く関係がない者たちに、まったく別の意図を持って運ぶよう強要された者たちですの」

「その結果、奇妙な偶然から被害者の事件が引き起こされたわけね」
彩音は興奮気味に言った。

事態は次第に明らかになってきた。その結果、彼女たちは事件の背後に隠れていた真実を暴くことができ、最終的にはこの事件を解決することができる道筋を見つけることができた。

そして、乃愛と彩音は再び休憩所に戻ってきた。何度も見た現場、けれど今は新たな光景が広がっていた。

「まさか、こんな風に終わるとは思わなかったわね」
彩音はほっと息を吐いた。

「本当ですわね。正義を持つ者たちが、間違った意図で動かされた結果、無関係な者が犠牲になるなんて」

乃愛は今後のために、心理学や論理を通じて、この事件の謎がどのように解消されるべきかを考え続けたのだった。優れたものであっても心無い行為が反響する世界で、彼女たちはその真実を知ることで、真の正義のあり方を求め続けることが大切だと痛感した。

これからも続く彼女たちの冒険は、いつまでも冷静であることを忘れず、強い友情を大切にして進んでいくことでしょう。