黒川梨乃は、心を踊らせながらプールサイドに立っていた。今日は体育の授業で水泳の時間。日差しがキラキラと水面を反射し、まるで宝石のように輝いている。普段は冷静でお嬢様みたいな雰囲気を保っているが、この日は特別だった。彼女の心は、同じクラスの村上和真に向けられているからだ。
和真くんは普段から天然で、何も気にせず笑っているけれど、そんな彼の優しい笑顔に惹かれてしまった梨乃は、彼がプールに入る姿を想像すると、つい妄想が広がってしまう。彼が水面を颯爽と泳ぐところを想像して、思わずドキドキしてしまう。私、一体どうしちゃったんだろうと思いつつ、心の中の発情した思いを抑えきれない。
「黒川、早く入らないと遅れるぞ」
ふと、後ろから声がした。振り返ると、やっぱり和真くんのふんわりしたミディアムヘアが目に入る。彼は元気そうにプールサイドに立ち、他のクラスメイトたちと笑い合っていた。やっぱり、和真くんは友達といるときが一番楽しそうで、心が温かくなる。
「はい、今行きますわ」
自然とお嬢様口調が出てしまった。ああ、私ったら、またこんな風に自分の気持ちを隠してしまった。もっとストレートに和真くんに近づかなきゃ。心の中で叫びながら、梨乃は水着の準備を始めた。もちろん、彼のために新しく作った水着を着るのだ。手作りして、彼の好みをリサーチした結果、彼の色に合わせた青を基調にしたものを選んだのだから。
授業が始まると、プールの中は活気にあふれていた。クラスメートたちがキャッキャと楽しむ声が耳に響き、まるでその一部になっているみたいで嬉しい。私もその中でバシャバシャと水をかけながら、和真くんを探した。
彼はプールの端で泳いでいる。ふんわりした髪が水をかき分けて、まるで人魚のように見える。その姿を見ただけで、心臓が高鳴り、胸がキュンとする。目が合った瞬間、彼はにこっと笑いかけてくれた。その瞬間、梨乃の心はバクバクと鼓動を打った。
「ねえ、黒川!一緒に泳ごうよ」
その言葉に反応して、梨乃は全力で手を振った。彼のもとへ向かうと、何を話そうかと緊張していた。自分の想いがどれだけ重いかは、彼には全く伝わっていないのだろうけれど、それでも彼と近くにいることができる在り方が嬉しかった。
「和真くん、見ててくださいわ!」
思わず跃ったり、崩れるように泳ぎながら近づいた。素晴らしい技術ではないけれど、彼の前で必死に泳ぐ姿は、少しでも彼にアピールできると思い込んでいた。しかし、当然のことながら、そんな梨乃の努力は全く気づかれない。
プールの中で遊び呆ける周囲の中、和真くんは自分だけの世界に入り込んでいた。何気ない笑顔を浮かべ、友達に助けを求められては無邪気に喜ぶ。普段もそうだが、彼の純粋さには梨乃の心を鷲掴みにする要素がたくさん詰まっている。
「黒川、今度一緒に散歩しないか?」
突然の問いかけに、梨乃は驚きつつドキリとした。もちろん、一緒に過ごせるチャンス!そんな軽い気持ちで彼に近づくことなんて、私にはできない。薄情だと思われるかもしれないが、自然に近づくことができて嬉しくてたまらなかった。
「和真くんと?」
心を込めて返事をした。彼の反応が心に重く、でも外見は自然に接したつもりだった。和真くんは何も気にしていない様子で、逆に私が乗り気になっていることに気づかない。そんな姿に愛しさが募る。
「そうだよ。楽しそうだから」
その返事を聞いて、梨乃は嬉しさでいっぱいになった。彼がそう言ってくれるだけで、私はどれだけ幸せを感じるか。少しずつ私の想いを受け止めてくれるかもしれない、そんな期待が心の奥でさざ波のように広がっていく。
授業が進むにつれて、彼の存在感の大きさを感じ、心が昂揚してゆく。だが同時に、彼の天然さにイライラする瞬間も私にはあった。それは、周囲の友達と一緒に遊ぶ彼の様子を見ている時だ。
「黒川、すごいね!もっと頑張ったら、優勝できるかもよ!」
正直、私の気持ちは和真くんに対して独占欲が強いため、彼が他の友達と楽しんでいることに嫉妬を感じた。和真くんが私だけを見ることなく他の人と笑い合っている姿は、私には許せなかった。もちろん、彼が楽しいと思ってくれることは嬉しいが、その瞬間だけは私の心は敏感に反応して、急に差し出すように嫉妬が訪れる。
「和真くん、私のことをもっと見てくださいわ!」
無意識に声に出してみたが、気づいてもらえるはずがない。彼はやっぱり何も感じないのだ。私がどれほど自然に接近し、愛し続けていたとしても。時々、彼の視線が他の子に向けられるのを見ていると、なんだかすごく腹立たしい気持ちになる。
でも、その一瞬の感情に気づいてくれる人は一人もいない。ああ、私ももっと素直にならなきゃかしら。それとも、私の存在を和真くんに意識させる何かが必要なのだろうか。考えは尽きない。
そんな葛藤と戦う中、授業が進んでいることも気づかず、私はプールの中で漂いながら、どれだけ和真くんに近づこうと奮闘していた。彼と関連するすべての出来事は私にとってチャンスでもあり、近づく勇気が欲しかった。
水泳の授業が終わり、プールサイドに戻ると、和真くんがゆっくりと笑いながら近づいてきた。それを待っていたかのように、彼の言葉が私に重くのしかかる。
「すごく楽しかったね、黒川!」
ドキドキが止まらない。彼のその言葉に、全身が熱くなるのを感じる。彼に好意を持っていることを、私としては伝えたいのに、どうしても一歩が踏み出せない。
「和真くんも、本当に楽しそうですわ!」
明るく返すが、心の中ではもどかしさが渦巻いていた。彼は私の重い想いに全く気づいていない。そして、その無邪気さは時に私を陥れる要因になってしまうのだ。このままではいけないのではと考えながら、私は彼との会話を楽しむことにした。
「また水泳したいね!」
「はい、もちろんですわ。次の機会は逃さないようにしないと…」
心の中で、今度こそ自分の想いを伝えたいと誓った。どこかで彼の心に何か響く瞬間があることを信じて、今度こそ!と心の中で強く決意した。
その日、私の想いは高まっていく一方だった。何があっても和真くんに近づき、彼に私の熱い想いを届けてみせる、と。プールサイドを去りながら、彼との関係が進展する未来を小声で誓った。私の心には、彼との特別な瞬間が約束されると信じていた。