第29話 「避難訓練の日の恋心」

今日は避難訓練の日。朝から青い制服を着たクラスメイトたちが校庭に集まり、緊張感に包まれている。私はその中で、心臓がドキドキしているのを抑えながら、村上和真くんの姿を探していた。

「和真くん、どこにいるのかしら……」
私は思わず呟く。

彼はいつものふんわりした髪型で、やっぱり優しい笑顔を見せている。私の目が彼に向けられた瞬間、彼が手を振る。その優しさに、思わず顔が赤くなる。彼は私のことを
「黒川」
と呼ぶけれど、私の心の中は
「和真くん」
という特別な存在で満ちている。

「黒川、何を見てるの?」
と、クラスメイトが私の視線を追ってきた。私は慌てて目を逸らす。こういうシーンがクラスメイトに見られるのは少し恥ずかしい。だって、周りの子たちには私の想いが見え見えだから。

訓練が始まり、全校生徒が避難経路を確認する。しかし、私の頭の中は和真くんのことでいっぱい。彼がどんな行動をとるのか、しっかりと見守らなければ。私はいつも彼の行動を見ている……彼が近くにいる時、心の中でいろんなシミュレーションを描いている。

すると、不意に後ろから声が聞こえた。
「黒川、しっかりして。教室に戻るよ」
それは、和真くんだ。私は思わず心臓が一瞬止まった。自然と背筋が伸びる。

「はい、和真くん。もちろんですわ」
私はいつも通りお嬢様口調で返事をする。だけど、内心はバクバクしている。彼の純粋な瞳が私を直接見つめると、どうしてもドキドキが止まらない。

クラスが整列し、避難が進む中、突如、全校生徒を脅かすハプニングが発生した。校内にいる生徒たちが避難する時、突然のアナウンスが流れたのだ。
「教室にこもってください。何か実験を行います」
この瞬間、私の心に不安が訪れる。

「実験!?何が起こるの!?」
私は内心焦っていた。周りも騒がしい男女が
「本当に大丈夫?」
と不安になっている。その時、和真くんが私に寄り添ってきた。

「黒川、心配しなくて大丈夫だよ。何も起きないさ」
彼は、まるで天然記念物のように、いつも通りの無邪気さで私を安心させようとする。そんな彼の言葉には、私の不安が和らぐけれど、どうしても私の心の奥底に眠る独占欲は消えなかった。

「もちろん、和真くんがいるから大丈夫ですわ。でも、私はずっと和真くんのそばにいたいですわ」
本音を言えない私は、心の中で叫ぶ。

避難訓練が始まると、少し不安に駆られたクラスメイトたちが、ざわざわと動き出した。
「あの時、本当に何が起こるんだろう!?」
そんな疑問がみんなの頭を悩ませている。私もその一人だけど、和真くんの声や動きに集中することができる自分がいる。

すると、避難訓練の最中に和真くんが私の手を優しく掴む。
「黒川、少しこの場所から離れよう。もっと広いところがいいよ」

私はその瞬間、自分が異常に幸せな気持ちになった。彼に手を引かれながら、周りの騒がしさが遠くなっていく。

「す、すみません、和真くん。また一緒にいてくれるのですか?」
私は思わず意識を飛ばし、彼の目をじっと見つめた。その表情は意外にも無邪気で、守ってくれている気がして、心が温かくなる。

「もちろん、黒川は僕にとって大切な友達だし、心配しなくていいって言ってるだろう」
和真くんは、おどけたように笑う。そんな彼の笑顔に、私はどれだけ好きになってしまうのかを考えてしまう。

すると、突然周囲の電気が暗くなった。避難訓練のための緊急点灯。クラスメイトたちはパニックになり、慌てて校庭へと移動し始める。私はそっと和真くんを見つめ直した。

「和真くん、私も一緒に行くから。どこに行っても、和真くんと一緒だと嬉しいですわ」
と、心の底から伝えようとする。

「いいよ、一緒に行こう」
彼は優しい笑顔を浮かべてその言葉を返してくれた。

少し落ち着いて、避難訓練のための指示が聞こえると、私たちは互いにしっかり手を繋いで、行動することになった。もちろん、私は和真くんの手を握りしめ、そうすることで自分の心が落ち着くのを感じる。

口が裂けそうなほど緊張していた心を、和真くんの存在が和らげてくれる。この世の中に危険があっても、彼と一緒にいる限り恐れることはない……そんな、確固たる信念が心の中に少しずつ芽生えていく。

いざ体育館に移動すると、避難訓練の指示により、クラスメイトらが座り込み始めた。和真くんと私もその一員となり、周囲を見渡す。生徒たちがバラバラに配置される中、私は不安定な姿勢のまま、彼からの距離をなるべく縮めようと気を使う。

「黒川、君、どうか安心して。僕がそばにいるから」
彼の言葉が耳に響く。私は自然と頷く。彼がいると、安心できる。だからこそ、より彼の存在が愛おしくなる。

曲がりなりに避難訓練は続いていく。その間、私の心の中で、二人の関係性がどう進展するのか、思わず考えを巡らせていた。

「今、何を考えているの?」
和真くんが優しく問いかけてくれる。ああ、まさに彼らしい天然な言葉。私はどう返そうか迷った。

「和真くんと一緒だから、なんだか安心して、楽しいことを考えていましたわ」
そんな言葉をどうしても言えない。心の中では
「どれだけ愛しているか」
を伝えたい気持ちでいっぱいなのに。

「そうなんだ。僕も黒川がいるから楽しいよ。この避難訓練も思い出に残るね」
と、和真くんの様子はまったく変わらない。もう彼にとっては私の気持ちも、私の愛も、全て冗談にしか映っていないのだ。

その瞬間、一瞬の衝撃が体を走った。これではいかん!もっと、私の愛を伝えなければと思う。私は彼にゾクゾクしながらも、思い切って意を決した。

「和真くん、ね、ねぇ……私、あなたのことが……」
言いかけた言葉がまた途中で消える。流石に避難訓練の真っ最中では、そのほうが失礼すぎるわ。

「お、おう、大丈夫?しっかりしてね」
彼の優しい声が私を引き戻す。ドキリとする。どう考えても、彼には私の気持ちを一部でも伝えなければ。大切な相手に対して、どうしても言葉が出てこないのがもどかしい。

訓練が進むにつれ、強い緊張感が漂い、私の目には隣にいる和真くんの姿がよく見える。彼の穏やかな姿に、少しずつ心が和らいでいく。

心の中で、次は絶対に伝えようと決めた矢先だった。後ろのほうから突然の大騒ぎが生じた。
「誰かが倒れた!」
という叫び声が響く!

私の心臓は跳ね上がる。この瞬間、私のすべての思いが和真くんの安全を守ることに向かう。

その時、和真くんがリーダーシップを発揮する。
「落ち着こう!僕たちで囲んで、救護に当たるんだ!」
無意識で口にした言葉が、周りを静める。

私はすぐさま彼のサポートをし、他のクラスメイトと共に協力し合った。和真くんの理知的な姿に見惚れる。彼に守られ、支えられ、私の想いが再度現れる。

「あの子のために私も何かできるはず……」
その思いが湧いてくる。そう思って、何かアクションを起こそうとした瞬間、私の意識の中で一つの閃きがあった。それは、私自身の愛をもっとはっきり彼に伝えること。

「和真くん、私を信じて一緒に助けよう!」
私は心の中で叫び、体を前に進めた。彼の動きに合わせ、共に行動する。その瞬間、彼との心の距離が少しずつ縮まっていく感覚がする。

訓練が進み、無事にピアノを弾くかのように状況を解決した時、私の心には一つの確信が芽生えた。和真くんの隣でい続けることができれば、どんな困難も乗り越えられる。

緊急事態も落ち着きを取り戻した時、自然と彼の目を見つめた。そして、私は意を決して言った。
「和真くん、私はあなたのことが大好きですわ!」

けれど、和真くんの反応はまたしても予想を裏切る。彼は驚いて私を見つめ返し、それから、笑顔のままに応えた。
「ありがとう、黒川。でも、大切なのはみんなだよね!」

この瞬間、私の心は一瞬沈んだ。彼の言葉は私を内心で締め付ける。しかし、同時に和真くんがどこまでも純粋な思いを持っていることも併せて感じられた。

「そうなんだ、みんな大切。でも、私は特別なんですわ!」
と、思わず心の中で叫ぶ。どんなに重くても、彼の心には私が近づけない壁があるのだから。

しばらくしてクラスメイトたちが和真くんと私のところに集まり、伝えられた授業内容が戻ってくる。そして、私の心もとても不安定になった。だけど私は、和真くんの優しさを胸に抱えることができる。だけど本当は、彼に私の独占欲を拡張したい気持ちが渦巻いている。

「今度はもっといい場面を作りたい」
と、私の中で新たな決意が芽生える。今は何があろうとも、和真くんと心の距離を狭めるための努力をする。どんな幸せな時も、彼と共にしたいと思った。だって、私の想いは重いけれど、離せないものだから。

こうして避難訓練のハプニングを経て、和真くんと私の関係には新たな一歩が加わった。互いに少しずつ心を開き、愛を育んでいく。不安でもあたたかく、羨ましいような感情が渦巻く。どんな時も、和真くんが私の側にいてくれるから、私はそれを信じている。

これからも私の愛の重さ、そして彼の天然さが何度も交わっていくのだろう。このラブコメの日々を続けられることが、何よりの幸せだと思う。