第28話 「学園祭の恋と花火の下で」

それは、学園祭の朝。朝日が差し込む教室で、黒川梨乃は窓の外を眺めながらドキドキしていた。今日は、村上和真くんに一歩でも近づける大イベントだ。お祭りの雰囲気の中で彼と一緒にいる…その瞬間を想像するだけで、心が躍る。

「黒川、準備できた?」
と気さくに和真くんが声をかけてくる。彼の笑顔はまるで太陽のようだ。私はますます心の中が高鳴った。

「はい、ですわ」
私はお嬢様口調を使いながら、自分を落ち着けようとしたが、内心は何とも言えない焦りでいっぱいだった。和真くんと一緒にいるための準備は整った。だけど、彼に私の気持ちがバレるのは絶対に嫌だ。彼の天然さを利用して、思いを伝えられたらと思いながら、計画していた。

私たちは、クラスのブースで売るためのお菓子を準備していた。和真くんは、のんびりとした表情で材料を運んできて、指示を求める。

「これ、黒川が教えてくれたレシピなの?」
と、彼は興味津々でそのレシピを覗き込む。

「ええ、特別に考えたものですわ。和真くんのために…」
と、思わず心の声が漏れそうになって焦る。私は何度も和真くんのために特別なお弁当を作ったけれど、いつか直接その気持ちを伝えたいと思っているのだ。

学校の中が賑やかになり、特に子どもたちの笑い声が響く。と、その時、ふと目に留まったのは、一人の迷子の子どもだった。泣きそうな表情をしており、周囲を見回している。

「和真くん、あの子…」
私は彼の手を引いて指差す。迷子の子どもを見つけると、心が痛む。心優しい和真くんは、すぐにその子のところに駆け寄った。

「どうしたの?大丈夫?」
と声をかけると、子どもは
「ママが見つからない」
と涙をこぼした。和真くんの優しい声に、私は心から感心してしまった。彼は本当に誰にでも優しい。なんて素敵な性格なの…!

「一緒に探そうか。ママさんはどこにいるか覚えてる?」
和真くんのその言葉に、子どもは少し落ち着くと頷いた。
「じゃあ、これを持っていてくれる?」
と、和真くんは子どもに小さなおもちゃを手渡す。

そんなやり取りを見ながら、私は思わず目を細めてしまった。和真くんが人を助ける姿がまるでヒーローのように映る。私も、いつか彼の隣で彼を助けることができたらいいのにと思った。

「さあ、行こう」
という和真くんの声で我に返る。心のどこかで
「和真くんと一緒にいる時間がもっと欲しい」
と願う。私もその子どもを助けたい、彼に良いところを見せたいと思った。

「ママ、どこ…?」
子どもは頭を抱えながら言う。和真くんはその子の肩を優しくぽんぽんと叩く。
「一緒に探そう。ママさんのところに行くために、頼りにしていいよ」
と言った。

言葉の通り、和真くんは本当にみんなに対して平等だ。私もその姿に心を打たれて、一緒に手伝うことにした。自然と校内を一緒に回る。子どもに声をかけたり、周りを見渡したりしながら、一緒に探す時間が楽しさに変わっていく。

「ねぇ、黒川は和真くんのことどう思ってるの?」
隣のクラスメイトの声が、突如耳に入る。心の中でドキッとしながらも
「どういう意味ですか?」
と冷静を装う。

そのクラスメイトは、私の反応に振り返り、
「だって、あんた、和真くんのこといっつも気にしてない?」
と笑いながら言った。私は真っ赤になり、いても立ってもいられず、その場から離れてしまった。

「ああ、ダメですわ!私の気持ちがバレる!」
和真くんは全然気づいていない。でも、私が恥ずかしい気持ちを隠しきれずにいることは、彼には伝わらない。彼の天然さは、私の心をますます混乱させる。

私が迷子の子どもを助けたことを若干後悔しながらも、しばらく探した後子どもは無事にお母さんの元に戻ることができた。和真くんはその子の手を引いて、たくさんの笑顔を交わしながら嬉しそうに話している。

「良かったね、見つかって!」
和真くんは心から喜んでいて、その瞬間、私も嬉しさでいっぱいになる。でも、同時に自分の想いとのギャップを感じた。彼が他の人をこうして助ける度に、私はどんどん彼への気持ちが深くなっていく。

その後、和真くんは子どもとさよならをして、私の方に戻ってきた。
「黒川、見てた?無事に見つかってよかったな」
と無邪気に話し掛ける。

「ええ、ですわ」
と、私は思わず微笑む。しかし、その裏で、思ってもみない展開が待ち受けていた。最近、私に好意を持つ子がいくつかいて、それが和真くんにも伝わるのではないかと不安を感じているからだ。

友達の一人が
「黒川、今度告白したら?」
と軽く言った。私の心臓が急に跳ね上がる。
「告白!?そんなこと、できるわけないですわ…彼がああいう人だと知っていて、ただの友達でいたい…でも、心のどこかで彼との距離が辛い」
と心の中で叫ぶ。

和真くんは、そんな私のことを気にすることなく、またもや子どもたちの遊ぶ声に目を向け、笑顔を見せる。彼のその天然さに、私はますます恋に落ちていく。

こうして、一日がまるであっという間に過ぎ去っていく。無事に学園祭は大成功し、日が暮れる頃には教室にも多くの笑い声が響き渡っていた。私たちはみんなで片付けをしながら、楽しかった思い出を話し合う。しかし、私の心の中には和真くんへの想いがうずまいているばかりだった。

「黒川、疲れた?」
和真くんが優しく聞いてくる。私の心が再びドキドキする。
「ええ、少し… ですが、和真くんと一緒だと、疲れも忘れてしまいますわ」
と心の中で伝えたくてたまらなかった。

その後、片付けも終わり、私たちは外に出た。夜空には星がきらめいている。
「花火を見ていこうよ」
と和真くんが言った。私も心の中で、この瞬間が続いてほしいと願った。

花火が上がると、その美しさに目を奪われ、私の心の中もまた踊った。和真くんと一緒にいるこの瞬間… ああ、本当に幸せだ。周りの子どもたちと一緒に盛り上がる和真くんを見ながら、私は自分の想いを整理しようとした。

この気持ちをどうにかして伝えなければ。きっと彼も幸せを分かち合えるはず。自信を振り絞り、和真くんの隣に少し近づく。

「和真くん、私、あの…」
言葉がうまく出てこない。心がゆらゆらして、頭の中が真っ白になる。

ふと、和真くんが私の方を振り返った。
「どうしたの、黒川?」
その一言には、私の心が一瞬止まった。いつもの天然な優しい声が、私を打ちのめした。

「わ、私は…その…」
まだ答えられない。でも、彼のためにこの気持ちを伝えたくて。

その瞬間、花火が最高潮に達し、空に大輪の花が咲く。その美しさに酔いしれながら、私は顔を赤くしてしまう。和真くんの瞳が私を映し出すその時、私に勇気をくれたような気がした。

「和真くん、気持ちを伝えたい…!」
心の中で叫びながら、彼の笑顔に心が奪われた。私の想いが、この瞬間に届くことを信じて、私はこの美しい夜空の下で一歩を踏み出す決意をした。