第27話 「地下鉄サバイバルの選択」

麗司は、暗い地下鉄の通路を慎重に進みながら、周囲の物音に耳を傾けていた。真っ暗な環境の中で、ひときわ響く水の音が彼の心拍数を上げた。それは地下鉄が長年使われていなかった証拠であり、もはや人間の干渉が届かない世界へと導いているように感じられた。

彼の心には、次の行動をどうすべきかという考えが渦巻いていた。この有様で生き抜くためには、孤独なサバイバル能力を頼りに何とかしなければならない。そんな中、持っている資源をどう有効活用するか、考えずにはいられなかった。

「まずは、食料の確保だ」

彼は自らに言い聞かせた。これまでに缶詰や冷凍食品を手に入れたが、それは十分ではなかった。街中にはまだまだ抗うべき物資が残されているはずだ。しかし、それを得るためには大きな危険が伴うことも理解していた。ゾンビ、あるいは野生動物が存在する環境で、誰とも一緒に行動しないのでは、何が起こるか予測がつかなかった。

地下鉄の薄暗い通路を進むにつれて、彼の周囲に潜む危険に対する緊張感が高まり続けた。通路の壁には水滴の付着やカビが目立ち、長い間人々が来ることのなかった場所であることを示していた。体はかすかに震えていたが、彼は屈服しなかった。自身の知識や経験を生かし、この場で適切に動くことが求められている。

「冷静になれ、麗司」

呟くように口に出し、自らを鼓舞した。彼は少しずつ足を進め、光の少ないトンネルの奥へと向かった。通路の行き止まりには、とうとう二つの選択肢が現れた。一方は上に上がる階段、もう一方は地下の深い場所に続くトンネルだった。どちらを選ぶか、彼は慎重に頭を働かせた。

上の階段には出口に繋がる可能性がある。しかし、他の人々がその場所にいるかもしれず、ゾンビと出会う危険性もある。一方、下のトンネルには何が待っているか、全く見当もつかなかったが、無人の空間である可能性も高かった。

「どちらに進むか。時間が無い」

彼は思考の渦を抱えながら、選択を迫られた。結局、地下に向かうことにした。危険が高い場所には近づかないのが生存のコツだと、彼は理解していたからだ。この思考が、彼を少しでも安全な側へと導くはずだった。

トンネルに足を踏み入れると、周囲の静けさに一瞬圧倒される。かすかな水の音や地下の換気扇の音が、彼の耳に微かに聞こえる。足元には水たまりができていて、彼は慎重にそれを避けながら歩き続けた。暗闇の中、明かりがないことで、自らの意志を頼りに進むしかなかった。

どれほど進んだか、少しずつふわっとした感覚が周囲に広がりながら、彼はある場所に到達した。広がった空間、そこにはかすかな光が差し込んでいた。天井からの光だろうか、薄暗い場所に降り注ぐ光は、彼に一瞬の希望を与えた。

麗司はゆっくりその光の方へ近づき、何なのか確かめてみることにした。近づくにつれて、その光は地下鉄の運転士の小部屋であることに気付く。雑然とした中には、壊れた機器や不用品が散乱していたが、まだ一部は使えそうな道具や物品が残されていた。彼は慎重に周囲を見渡し、何が役に立ちそうか、を探し始める。

目に入ったのは、壊れたデジタル時計や携帯電話、簡易な工具道具。時計や電話はすでに機能しないものも多かったが、工具道具は彼にとって貴重なアイテムになるかもしれない。特にナイフやハンマーは、彼の生活の中で役立つ存在だった。

「これらは必需品になるかもしれない」

彼は心の中で考え、道具たちを一つ一つ丁寧に選んだ。ナイフを手に取ると、その重みを感じながら、彼はこれからの生活の希望に微かに心を躍らせた。自分がこうして生き延びるために必要なものが揃ってきたのだ。

手に入れた道具を肥大化する荷物の中にしまっていると、何か特別な音が耳に入った。例えば、かすかに聞こえるなにかが動き出すような音。その恐怖が彼の背筋を走る。直感で、何かが近づいていることを察知した。

「落ち着け、麗司。大丈夫、落ち着け」

心の中で自分を支え、呼吸を整える。彼は周囲の物音に耳を澄ませながら、動く影を探る。静寂が続く中、彼はその音が何なのかを把握するため、そっと後ろを振り返る。目の前にある影がゆっくりと近づいているのが見えた。

麗司は頭の中で何度も押し込んだ言葉を思い返し、自分を制御するよう努力した。どんな危険にも、その瞬間には冷静に対処する必要があった。彼は隠れられそうな台の下へ材を置き、空間を少しでも狭く見せるように行動した。

その時、彼の耳にかすかなずり音が響く。暗闇が彼を包み、その影が近づいてくるのが分かった。それは何かの視線を感じる同時に、緊張と恐怖の壁が彼を捕らえた。どうにかここまでやってきた自分が、まだ生き延びなければならない理由に向き合い続けた。

音が近くをかすめた瞬間、何かの気配が次第に近づいてくる。麗司は心の中で、冷静さを保ちながら次の行動を考え続けた。周囲に何か隠蔽できるものはないか、一瞬でも自分の位置がばれないようにするために、大きな呼吸をし、その瞬間を待つ。

影が近づくにつれ、かすかな相手の姿が現れた。それは、大小さまざまな傷を持ったゾンビだった。目は白く濁り、口元からは垂れた saliva が流れ落ちている。まったく状況を把握できなかったそのゾンビは、コツコツと地面を這いつくばるように進んでくる。

麗司は刃物を手に、動きを完全に静める。ゾンビの先にある物音に更に耳を傾け、もう一度心の平穏を確認しようとした。しかし、こちらの危険が迫っている以上、自分が何か行動を起こす必要があるのも理解していた。視界の隅でそのゾンビを見つめながら、逃げることができるのか、あるいは立ち向かう選択を取るのか、判断を迫られていた。

その時、麗司の目には突然の明かりが差し込んできた。背後には、通路の反対側から照明が点ったのだ。それは彼にとった幸運であったが、同時に新たな危機が迫っていることに気づいた。照明の光がゾンビの目に映り、彼に気付き、その視線が彼に向いた。

「しまった、バレた」

ついに麗司は意を決し、少しだけ影から身を離し、間に挟まる道具たちを一か八かで投げ捨てた。それによって音の発生源がそちらに移り、ゾンビがその方向へ向かう瞬間を狙った。彼は軽やかに身を翻し、廊下の最後の出口に急いだ。生き残るために選んだ瞬間を、心の中で温めた。

その後、彼は一気に通路を駆け出し、すぐに階段を登る。ゾンビに狙われずに済んだことに少しホッとしながらも、もう一つの選択肢であった道に身を投じた。通路から抜けると、そこは駅の一部が明るく照らされ、少し安堵感のある空間が広がっていた。

地下鉄の運転室の中での出来事が脳裏に焼き付きながら、彼は再びどこに向かうべきか考えを巡らせていた。
「ここで立ち止まっていてはいけない」
と、自分に言い聞かせ、周囲を探りながら希望に満ちた明るい未来を求め、外の世界へと進むことにした。

地下鉄の出口から外へ出ると、陽の光を受けることで彼の心は包まれた。そこで彼は異常な静寂を再び感じつつ、慌ただしく見回す。周囲で何かが竦み、緊迫した空気が漂う中でも、彼は明確な目的を持ちながら探求を憶えていた。それこそが彼を生き延びさせるための武器であった。

次なる行動として何を選ぶべきか、迷うことなく精神を高める。彼の目的が、探し求めるものであることを強く意識しながら歩き始める。それは目的が、もはや自分に求められるものを超えた、生存そのものであるからだ。ゾンビたちと戦う日々の中で、彼の一歩は確実に進んでいく。

麗司はただ生き延びるのではなく、引き寄せられるように周囲を回り、正面からの危険を直視する。それこそが生存の鍵であり、この崩れた都市からの再生の契機であると確信し、更にはそれが彼自身の未来にも繋がるものだと願い、微かに期待を抱きながら進むのであった。