麗司はファミリーレストランを出た。その壊滅的で静寂に包まれた街並みは、元々の賑わいを完全に失ってしまっていた。彼はまず、周囲を注意深く観察しながら次の行動を練った。今は身の回りにある資源を最大限に生かし、一歩一歩確実に進むことが求められる。彼の心の中には、明確な目的があった。次に目指すのは、近くのスーパーだ。
そのスーパーは、普段の生活では頻繁に訪れる場所ではなかった。しかし、今の彼にとっては、わずかでも食料や生活必需品が見つかる可能性のある場であった。人々が血を流し、命を懸けていた時代と比べて、彼はただ生を繋ぐためにその雑多な空間を目指す。
「行こう」
彼は小声で呟き、心の中で自分を鼓舞した。這いつくばるように歩きながら、麗司は心の中でシミュレーションを続ける。まず目指すは本当に無事に物資が手に入るのか、そしてその後の動きはどうするのか。考えが頭をよぎるが、彼は恐れないことを決議した。
再び外に出ると気温が少し高く、もやっとした温かい風が彼の顔をなでた。気が滅入る現実の中でも、こうした些細なことに安らぎを見出すことができたのは、やはり彼の冷静さや冷めた観察眼から来るものだった。周囲の異常な静けさは、彼にとって逆に恐ろしさを増した。耳鳴りがし、普段の生活では感じることのなかった神経が研ぎ澄まされる。
二、三歩先を見て、その周辺に人がいるかいないか慎重に判断する。次に目指すスーパーの方向へと一歩踏み出す。その道はかつての日常に残る人々の足跡を辿るようだった。麗司の心もまた、過去の記憶に洗われる。けれど、その日常が崩れてしまった後に戻ることはない。
建物の陰に身を潜めて進んでいると、彼はかすかな音が耳に入ってきた。無意識に足を止め、思わず身を硬くした。前方には、二体のゾンビがこちらに向かってきていた。彼らは元は誰だったのか、表情や服装だけで判断することはできなかった。薄汚れた衣服が身体にまとわりつき、足元がふらついている。
音に反応して近づいてくるゾンビに視線を固定し、彼は自分の存在が発覚しないよう気をつけて後退した。慌てず、冷静に呼吸を整え、じっとしていることに徹底した。こうした状況では、冷静な判断力が生き残りのために欠かせない。数分の間、身動きせずに待機することは、決して無駄ではなかった。ふと、彼の耳には再び静寂が戻ってきた。尋常ではない静けさに心拍数が落ち着いてくる。
さらに待ち構えた後、ゾンビは去っていった。そのタイミングを逃さず、麗司は再び前に進むことにした。スーパーの入り口が見えてきた。普段では何気なく入っていた場所だが、今は彼にとって命をかけた場所だ。おびただしい情勢の中、彼はその扉を押し開ける。
店内は暗く、すっかり静まっていた。物が散乱し、かつての賑わいは消え失せている。麗司は目の前の状況をしっかり受け入れ、一瞬息を呑む。その時、ひどい腐敗臭に彼の嗅覚は襲われた。すぐ近くには、倒れている人間の死体が放置されていた。そして、その傍らには幸運なことに缶詰の山が見えた。
「まずは食料の確保だ」
彼は心に誓った。
さりげなく歩み寄り、近くの缶詰を手に取った。中身を確認しようとラベルを見たが、傷んでいないかどうかわからなかった。食べることができるのか、運に託すしかない。それでも、他に選択肢はなかった。彼はすぐに手に取れるものはすべて持ち帰るつもりだった。
缶詰を手に入れることで、少しの安堵感が彼を包む。支店の中を一通り確認し、冷凍庫へ向かった。冷凍庫にはまだ一部の保存食品が残っている。麗司はそれを見つけると、今は何があっても必要な冷凍食品を見つける価値があると思った。
突然、背後で音が聞こえる。麗司は動揺して振り返った。彼の心臓が跳ね、生命が脅かされる危険を察知した。しかし、そこには他のゾンビはいなかった。音の正体は、崩れ落ちた棚から落ちた物と分かった。安堵しながらも、混乱を避けるためにすぐに冷凍庫の中の品々を確保し、次に進むことにした。
急いで冷蔵庫を調べ、食材を集めていると、放置された調理器具も目に入った。鍋やフライパン、刃物などが彼の目を引く。生き残るためには、自分で料理をする必要がある。持っていっても良いか、悩みながらもいくつかを選び、カバンにしまう。これから先、彼は自身が必要とする道具を増やしていく必要があるのだ。
すべてを荷物に詰め込んだ後も、まだこの店に留まる理由は見当たらない。進むことを心に決める。外に出た瞬間、来た道を逆に戻り、近隣で安全な場所を捜す必要があった。街の晩秋の黄昏が彼を包み込み、彼の心の中で生き残りたいという思いが遥かに膨らんでいる。その衝動が、彼を進ませる。
さて、彼はどこへ行くべきか。その時、彼の目には駅の方角が映った。もしかしたら、そこで新たな物資を見つけて、さらに生存を確保できるかもしれない。だが、その道には多くの危険が待ち受けていることは知っていた。ゾンビや野生動物の存在は彼にとって常に脅威だった。
「行こう、駅の方へ」
麗司は決意しながら思った。方向を決めることで自分を奮い立たせ、前進を始める。道を選ぶことだ。出口の見えない暗闇の中でも、次の道を探し続けることこそが生き残るための秘訣だと、彼は確信した。
移動を続けながら、彼は再びこの異常な環境がもたらす影響に直面していく。これまでも見てきたが、無理をしない限り、途切れない道のりが必要なのだ。周囲の何かが彼を襲うかもしれない。どんな小さな音にも反応する必要があり、その反応が生死を分けることになる。続く道が途切れない限り、最適な選択をするしかない。
駅に近づくにつれ、周囲には薄暗さが広がり始めた。麗司は周囲を注意深く見渡し、昼間でもほとんどの店が閉まったままである。彼は心の中で安堵を感じる。この静かな暗闇の中で、再び一歩を踏み出す。周囲の危機を感じながらも、生き残るための希望を抱いて進む。
その時、麗司は一つの選択肢が広がった。周囲には、地下鉄の出入り口もあった。どんな危険が潜んでいるか分からないが、踏み込む価値があるかもしれない。彼は自らの冷静な判断によって、その可能性を能動的に探っていく。なぜなら、いいものが見つかるかもしれないという期待感もあったからだ。
「ひとまず地下鉄も探ろう」
そう心に決めた麗司は、地下鉄の扉に向かって慎重に近づいた。通路には水が流れ込み、かすかな音を立てて踊っている。彼は耳を澄ませ、いつ何時、物音を立てないよう心がけた。この場所にも恐怖や危険が潜んでいることを十分理解している。
縦長の通路に足を踏み入れ、彼は何か得られるものがあるのか感じ始める。静寂の中で、誰かの声が彼の耳に届いた。その声は彼に安堵感を与えながらも、恐れを同時に煽る。彼は進むことを選択し、暗い地下道を探索していく。
求める先に何が待っているのか、何が彼を待ち受けているのか。麗司はその未知に身を任せ、希望の光が少しでも見えてくることを願いながら、静かに前進した。生き延びるためにできる限り自分の取りうる行動を続け、崩壊した都市の中で歩を進める。
彼の生存への意志は、一歩一歩、確かな足取りとなっていく。どこまでも続く旅路の中で、失った日常を一歩一歩取り戻していく覚悟を持って。ゾンビたちと戦う日々が待っているとしても、麗司は希望を胸に、新たな生を求めて進み続けるのだった