麗司は、あたりを見回しながら、次の行動を決めようとしていた。荒廃した都市の中で生き残るためには、気を緩めることはできない。まずはファミリーレストランへ向かう予定だが、そのためには手持ちの資源を確認し、今後の動きを計画する必要があった。周囲の状況を把握し、何が必要かを考えなければならない。
ファミリーレストランの方向へ進む前に、麗司は自分がこれまでの生活で蓄えた知識を思い出し、何が自身のサバイバルに役立つかを考えた。まず、最も重要なのは食料と水だ。彼は先ほどのスーパーで数日分の飲料水とインスタント食品を確保していた。しかし、これらはやがて尽きることが予想されている。長期的に生き延びるためには、他の物資を確保する必要があるのだ。
麗司は自分の体力と時間の制約を考え、最初に目指すべきはファミリーレストランであると再確認した。しかし、移動するためには安全を確保することが最優先だ。彼は周囲の音に耳を澄ませながら、不安を抱えて少し前に歩き出した。
ガラスのドアを再び開ける時、心臓の鼓動が速まるのを感じた。外に出ると、広がる荒廃した街並みはかつての賑わいを失い、ただ死の静寂が漂っていた。麗司は、周囲をよく見極めながら、ゆっくりと彼の記憶の中のファミリーレストランの位置を思い出す。正確な場所まではまだ道を確認していなかったが、少しずつ進む内に目指す場所がどこにあるのか理解できてきた。
静けさが恐怖心を煽る。そのため、彼はできる限り音を立てないように注意する。足元はデコボコした地面で、時折ガラスの破片が散らばっている。踏み外すことは命取りになる。視線を地面に固定し、進む角度を読み取るが、時に時折顔を上げて周囲を警戒する。
彼は時間とともにファミリーレストランに近づく。それに伴い、彼の不安はより高まっていく。街の一部では、まだ生きた人がいるのかもしれないという期待と、何かがひしひしと迫ってくる不安が彼を包む。音がするたびに、ひるみそうになる自分を必死で抑え込みながら前進する。
ファミリーレストランの近くにたどり着いたころ、麗司は周囲に人の気配が感じられないことを確認する。その瞬間、彼は味わったことのない孤独感と恐怖感が彼を襲った。ひとりで生き延びようとしている自分が、何のためにここまでやって来たのか、改めて考えさせられる。無情にも周囲にはゾンビの姿がなく、ただ空虚さだけが心に残った。
「恐れない、進むしかない」
自分に言い聞かせるように、麗司は一歩踏み出した。心を落ち着けながら進むと、苦労して近づいて来たレストランは、泥と埃にまみれているものの、看板がかろうじて外観を保っている姿が見えた。彼は扉にはまだ開くべきか、少しためらったが、今は探索を続けるしかないと考え、扉を開くことにした。
中に入ると、空気は沈黙に満ちていた。薄暗い店内に、視覚的には何もかもが静止したようなトーンで、正面には無残に散らばったテーブルや椅子の光景があった。麗司は一旦扉を閉め、周囲の動きを観察する。何か音が聞こえたり、視界に動きがあれば、すぐに隠れる準備をしなければならない。その一瞬の緊張感が、彼をより注意深くさせる。
「まずは食料を確保しよう」
彼は周囲を見渡しながら、レストランの厨房へ向かうことにした。厨房には、いまだ食材や器具が散乱しているかもしれない。扉を開けると、かすかな悪臭が漂ってきた。放置された食べ物が腐りはじめ、まさに死の香りが充満していた。それでも、麗司にとっては必要不可欠な資源なのだ。
慎重に検討しながら、冷蔵庫を開ける。中には、いくつかの未開封の缶詰が残っているのを見つけた。それらはまだ食べることができそうだ。それを手に取りつつ、賞味期限を確認しようと考えたが、すでにその概念は意味を失っている気がした。どんな状況でも生き延びるために、何が自分に必要かという本能が強まっている。
彼は缶詰を数個確保し、その後、冷凍庫の中も確認する。冷凍庫には食材が減っているが、まだ冷気が感じられる。中に残る冷凍食品を取り出し、注意深く取り扱いながら、余分なものも探す。彼は最低限の選択肢を見極める必要があった。
その最中、突然に外から響く音に彼の心臓が跳ね上がった。振り返ると、何かが足元で転がり落ちた気配を察知する。その直後、不意にして目を凝らす。思い描いていた音ではなく、周囲のどこかからかゾンビの呻き声が聞こえてきたのだ。それは彼自身の神経をおびやかし、絶望感をもたらす。しかし、動かぬ聴覚を頼りに、彼は一先ず冷静さを保ち、焦らずに行動を続けることにした。
「静かに、動かさない」
彼は声に耳を澄ませ、さらに物音の正体を探り続けた。ゾンビに気づかれてはいけない。そのためには、キッチンの隅にひっそりと身を隠す必要がある。身動きをしないように、彼は体を小さくし、静かに息を潜めた。たとえここが唯一の確保した拠点でも、油断は命取りになる。
そうして数分間、静寂の中で待機し続けた。その間に嗅覚が鋭くなり、どこから音がするかを明確に分かるようになってきた。決して大きな声ではないが、確かに足音と、その向こうにある音像は彼を取り巻く空気を変えた。
ようやく音が遠ざかり、麗司は身を起こすことができるようになった。不安の中にも安堵が混じり、彼はすぐさま行動を再開した。再び冷蔵庫の中を確認し、缶詰や冷凍食品と合わせて、他にも使用できる器具を探し出す。状態の良い調理器具や、保存食の袋などを見つけることができた。
「何とかなる」
確保した品を自己確認しながら、彼は少しだけ心に余裕を持った。残されたアイテムが、今後の生活の糧になると心から思いたい。しかし、これだけでは満足できない。彼は次にどのような行動を取るべきか、戦略を練る時間を必要としていた。
厨房から出る時間を遅らせる中で、何かに目をやり、彼は近くにある製氷機に視線を向けた。これも食材確保に繋がるかもしれない。急いでその扉を開けると、中には誰の手も加わっていない氷が残っていた。それを利用できれば、隠れ家的な掩蔽が効くのだ。だが、果たして彼はそこまでの余裕を持てるだろうか。
麗司は冷静でいたいと思いつつ、自分の心の中に湧き上がる情熱を感じた。もしかしたら、これからの毎日には相当な困難と戦わなければならないのだ。だからこそ、今は生き残るための一手を考え続けるのだ。
「生活していくつもりだ、何とかしなければ」
そう自ら励まし、彼は確保したアイテムを荷物に詰め込んでいく。
この一瞬は、これからの彼の生存を決定づける。彼はついに厨房を出ることを決断し、安全な道での発見と推理を続ける。はいはい何が待っているのかわからないが、現在の視界は彼が進むべき未来を示しているような気がしていた。
麗司がレストランから出たその瞬間、午後の日差しが当たり、彼の視界に広がる街は無機質で邪魔ものだ。その中でも、彼は無駄に動くことのないよう、進むべき道を決める必要があった。どの方向がより安全なのか、先々何を頼みの綱としていくのか、心の中で描きながら、再び移動を再開した。
「ファミリーレストラン周辺のスーパー、そして次は駅だ」
彼は、次に向かう場所を考えていた。食材を見つけ、必要な道具も整えた今、彼は新たなシナリオを描くために動き出す。生存のための計画はまだすべては整っていないが、どんな状態でも前に進み、生き延びる努力をするべきだと決意を新たにした。
「あらゆる場面で考え続ける。生き残るために」
彼は、目の前の道を確認しながら、一歩一歩慎重に進んだ。ゾンビたちが静かに徘徊する都市の中で、自分が今持っている意志と知識を駆使し、精一杯生き延びる道を模索していく。時間の流れとともに、麗司に存在する生への渇望は強まっていく。その一歩ずつが、彼の明日へと繋がる希望となるのだ。