水無月青志は、極寒の世界で生き残るための日々を重ねながら、次の準備に取り掛かることを決意した。彼の孤独な生活の中で蓄えられた知恵と技術を駆使し、少しでも安定した生活環境を作り上げることが彼の最大の任務である。温室での躍動的な努力は続く。次のステップは、土壌の質の向上と安定した水分供給のためのシステムを整えることだ。
青志はその日の朝、いつもより早めに温室の扉を開けた。冷たい空気が勢いよく吹き込み、彼の顔を撫でる。
「まだ、外は寒いな」
と彼は呟いた。外の景色は一面の雪に覆われ、どこを見回しても氷の世界が広がっている。一見、静寂そのものだが、その裏では彼にとっての挑戦が続いているのだ。
温室の中に入ると、彼はすぐにダンボールや毛布で作り上げた壁がしっかり機能していることを確認した。湿度も保たれ、昨日よりも数度温度が上がっている。
「この調子だ。植物たちも順調に育つだろう」
青志は心の中で期待に胸を膨らませ、まずは土壌の状態を一通り確認した。
温室の隅に積んである土壌がしっとりと湿っている。
「水分が保たれているな」
と青志は思い、次の課題を考え始める。先日の実験の結果を踏まえ、堆肥の準備を整えていくことが必要だ。自作の堆肥作りは、植物を育てるために欠かせない工程だと彼は理解していた。
「まずは、米ぬかや落ち葉の準備から始めよう」
彼は心に決め、必要な資材を探しに外へ足を運ぶことにした。外は相変わらず厳しい寒さだが、青志は装備された防寒具をしっかりと身に着けていた。周囲を歩きながら、落ち葉を集める場所を探してみる。落ち葉は土壌の栄養源として非常に重要な素材だ。
だが、外に出ると風が容赦なく吹き付け、肌に鋭い冷たさを感じた。瞬時に息が白くなり、彼は身をすくめた。
「無理はできないな」
と思いつつも、彼は周囲を見回す。手近にある木の下には、ちらほらと乾燥した落ち葉が見える。
「あれを集めれば、少しは助けになるはずだ」
と、彼は思いを新たにした。
青志はしゃがみ込むと、落ち葉を一枚、一枚拾い上げていく。積もった雪を避けながら、根気よく作業を続け、徐々に籠の中は落ち葉でいっぱいになっていく。冷たい手をしっかり掻き込み、手袋の中で手のひらを擦りあわせ
「このくらいあれば、大丈夫だろう」
と思いながら、心の中で次への道を描いていた。
だが、彼はただ落ち葉を集めるだけでは終わらなかった。今度は、貯水に使うために古いバケツを持ち帰ることにした。道中に見かけた壊れたバケツを取り上げ、慎重に地面から引き抜く。底に穴が開いているとはいえ、その形状はまだ利用価値があると彼は思った。
「これがあれば、水を効率的に供給できる」
と期待を寄せ、再び温室に向かうことにした。
温室に戻ると、青志は手にした落ち葉とバケツを巧みに使い始めた。まずは、バケツの修理から行う。古い木の板やガムテープを探し、穴を塞ぐ作業を進める。
「これで、まず水を貯めることはできる」
と語りかけるように自分に言い聞かせ、手際よく直していく。
修理作業を進めながら、彼は自らの手で何かを作り上げる高揚感を感じていた。新たな道具を作る過程が生き延びるための重要な一歩であることを、今一度確認した。穴をなくすことで水が漏れず、土壌に必要な水分を直接効率よく供給できるようになる。次の準備は着実に進んでいた。
バケツが完成した後、青志は早速、周囲の雪を利用することにした。
「この雪を溶かせば、水の供給源になるはずだ」
と思想を巡らせる。雪はそのままでは水分を発揮できないが、溶かすことで少しずつ液体となり、植物たちの成長に寄与してくれる。彼は近くの雪を集め、バケツに詰め込んでいく。
すると、思っていた以上に手間がかかり、バケツ一杯分の雪を集めるのも容易ではないことを実感する。冷たい雪を掴む手は次第に怠くなり、
「やっぱり、冬は厳しいな」
と再確認する。その中でも、彼の心には明るい光が差し込んできた。自分の目的を一つ一つ達成していく中にこそ、努力が表れているのだと感じる。
「これで、次のステップへ進む準備が整った」
と自分に言い聞かせ、青志は温室に戻る。彼は集めた雪をバケツに入れ、あたためるための暖かい環境を整えることを考えた。こうすることで、植物にも良い影響を与えるだろうと期待していた。
温室内で雪を融かすことを効率化するため、彼はストーブを再びチェックすることにした。古いストーブは故障している部分も多いものの、彼は何とか修理を施し、最低限の機能を果たさせることだけは成功していた。
「このストーブも、まだまだ現役だ」
と彼は自己暗示のように言い聞かせ、温室の中に設置した。
ストーブを使って雪を溶かしている間に、青志は落ち葉の処理を行う。彼は集めた落ち葉を細かく砕き、それを堆肥として利用する準備を始めた。
「土に混ぜ込むことで、良い栄養源になるはずだ」
と心の中でつぶやき、慎重に作業を進めていく。
彼は長い時間をかけ、落ち葉と土を丁寧に混ぜ合わせ、
「これが堆肥として機能する土壌になる」
と感じながら手を動かす。徐々に完成に近づくその過程が、彼にとって充実感をもたらす。
「自分の手で培ったものが、植物の成長に寄与する」
と思うことで、青志は孤独感を和らげ、自分の心を満たしていく。
少しずつ水が溶けていく様子を眺めながら、彼は新たなアイデアに思いを巡らせる。
「この水を、もっと効率的に土に供給できる方法がないか」
と。その瞬間、彼の頭に一つのひらめきが浮かんだ。
「水がスムーズに流れ込むパイプラインを作れば、植物たちに必要な水分をより確実に渡せるかもしれない」
と考えた。
青志は温室の中を見渡し、周囲に転がっている廃材を使うことを思いつく。古い丸太やコンクリートの破片、さらには古びたPVCパイプも彼の目に留まった。
「これなら、なんとかなるかもしれない」
と彼は目を輝かせ、早速それらを集め始めた。
集めた材料を前にして、吉と出るか凶と出るか、作業が始まる。
「まずはパイプを接続していこう」
と青志は手間を惜しまぬ。その過程を進める中で、
「これも一歩一歩進めていくしかない」
と感じながら、少しずつゴールに近づいていることを確かめていた。
かなりの労力を費やし、何とか形になったパイプラインを見つめる。彼は
「これで水が植物に直に流れ込むだろう」
と期待を込め、すべての準備が整った。そこに流れる水分が、温室内の植物たちにとって生命線となることを彼は強く信じていた。
仕事を終えた青志は、温かい場所に戻り土壌をチェックした。水分が均等に行き渡ったことを確かめ、安堵の息を吐く。
「これで、次のステージへと進める」
と彼は心の中で呟いた。成功への確信が、孤独の中でも彼を支えていたのだ。
次のステップとして、植物の種まきを行う日が近づいている。青志は植物が育つ環境を創り上げられたことに感謝し、次は新たな挑戦が待っていることを楽しみにしていた。彼は、育てたい作物の成長を心に描き、自分の手で希望を育むことがいかに大切かを再認識していた。
極寒の世界ではあるが、彼の心には温かさが宿り、次の一歩が待ち遠しい。青志は明日もまた新しい試練に挑む決意を秘めて、今日の疲れを癒しながら眠りについた。彼の目指す場所には、確かな未来が待っていると信じて。