青志は育成棚を完成させた後、達成感に包まれながらも、次の準備について考え始めた。温室内を見渡していると、彼の目は屋根の結露した水滴に留まった。外の厳しい寒さが、この小さな温室にも影響を与えていることを改めて実感した。その水滴が落ちるたびに
「水も貴重な資源だ」
と思い知らされる。これから育てる作物にとっても、大事な要素なのだ。
次に何をすべきか、青志は真剣に考え始めた。
「今回の作物リストには、野菜だけでなく、栄養補助となるものも必要だ」
彼は以前、栄養価が非常に高いと耳にしたキヌアやアマランサスの存在を思い出した。
「これらも育ててみるべきだ」
作物リストをノートに書き加える。青志は育成する作物の多様性を求める一方で、栽培難易度や収穫までの期間も考慮に入れなければならない。
それから、用意した土用の容器や肥料に目を向けた。
「肥料はどのように調達するか。でも、特に重要なのはやはり、土の質を保つことだ」
青志は、現状の資源を最大限に活用する方法を考える。温室の隅にはいくつかの枯れ草や落ち葉があり、それらを compost(堆肥)にすることができるかもしれない。
「まずは、堆肥を作る方法を考えよう」
彼は古いバケツと古くなった段ボールを集めて、堆肥製造用の容器を作ることにした。
「これで自然に乾かし、腐敗を促せば、肥料として使える」
彼は手際よく段ボールの外側に穴を開け、通気性を良くすることを忘れなかった。湿気が籠もらないように工夫するのは、青志のDIYスキルが存分に活かされる瞬間だった。
その後、青志は温室内のスペースを調整し、堆肥作りに必要な材料を集めることにした。枯れ草や落ち葉をバケツに入れ、上から水を加えていく。
「これから最低でも3ヶ月はかかるだろうが、待った甲斐がある」
と自分に言い聞かせながら、彼は作業を続けた。冬の寒さの中でも、おそらく腐敗作業は進むはずだと、青志は期待を抱いた。
堆肥の準備が終わると、今度は水やりのシステムについて考えた。気温が寒くなるにつれて、温室の水分管理は厳しくなるが、地中のデータを参考にすれば、冷たい外気を避けつつも、植物に必要な水を供給することができるのだ。
「もっと効率的な水やりシステムを自作できるかもしれない」
彼は思いついた。
青志は温室内の古いプラスチックボトルをいくつか見つけ、それを利用して簡易的な灌漑システムを作ることを決意した。
「ボトルの底の部分を切り取って、土の中に埋めれば、徐々に水が土に浸透していくはずだ」
このように、DIYで出来るアイディアを思いついた。彼は水やりを効率よく行うために必要な材料を集め再度作業台に戻った。
プラスチックボトルの口を切り取り、土に埋める際の位置を調整しながら、青志は完成形を描いた。しっかりとボトルを収納できるスペースを選び、土と水が入るようにポジションを決めていく。
「これで水やりの時間を短縮し、効率を上げることができる」
作業を進める中で、この小さな発明が精神的な支えにもなった。
湿気のある温室内で、作業をしていると青志の手も冷たくなっていた。しかし、彼はそれに屈することはしなかった。
「厳しい環境での工夫こそが、俺の力になる」
と彼は自分に言い聞かせた。寒さは身体を蝕むが、心に熱を持つことで乗り越えられると思えた。
また、彼は昼間の限られた時間を有効活用しなければならないと考えた。日が短くなる中、毎日の作業ができる時間も限られている。
「作業を効率化し、一日一進、少しずつでも前に進もう」
と青志は決意する。彼はその集中力を頼りに、さらに新しい作物を育てたいという希望も抱いていた。
青志は外がどのような風が吹いているかを確認すべく、温室のガラスを覗いた。
「また風が強くなってきたか」
と彼はつぶやく。あたり一面が白い雪に覆われ、何も見えないような風景ではあったが、それでも彼は気持ちを新たにし、作業を続けるしかない。
玉ねぎやニンジンを土に埋める準備も進めなければならない。腐葉土を使って土の質を高め、栄養満点の土を準備することが特に重要だった。青志は今持っている限られた物資の中で最適な組み合わせを考慮し、最適な土の栄養を再確認することにした。
様々なことを考えながら、青志は一歩ずつ作業を進めていった。
「何がないかに目を向けるのではなく、今あるものでどう活用するか。それこそが、この状況を乗り越える力になる」
彼の思考は自らを鼓舞し、孤独な生活の中でも力強さを感じることができた。自らの力で目指す道を進むことこそが、青志にとっての生の意味だった。
時折、雪の音が外で聞こえてくる。青志はその音を意識しつつ、心を集中させて作業に戻ろうとした。寒さが背中を押すようだが、それでも制約を乗り越える意志は強くなっている。
「この冬を越えた先には、春が待っている」
と信じてやまない青志の心には、不安が少しずつ薄れ、逆に決意が強まっていった。
育成が進むことで、次第に青志の心も癒されていた。
「作物が成長する様子を見られるのが楽しみだ」
と、彼は未来への期待感を抱きつつ作業を行う。しかし、同時に他者との接触がないことにも孤独を感じる部分があった。
「無理に人と関わる必要があるのか」
と内面的な葛藤に思いを巡らせることも多い。
それでも、青志は自身の選択を無借金で貫くことを誓った。
「選んだ道を信じ、進んで行こう」
と、泥まみれになりながらも充実した気持ちを抱えて作業に没頭した。極寒の世界の中でも、彼は唯一無二の体験を続けることに意義を見出すことができていた。
再び夜が訪れ、温室の中は心細い静けさに包まれていた。それでも青志は作業を続け、工夫を重ねていく。
「この孤独が俺を強くする」
と、小さな力強い思い込みが彼を支えていた。次第に夜も深まり、次の作業計画を心に叩き込みながら、青志は明日への期待を胸に再び手を動かしていくのだった。
日々の作業が彼の心を豊かにし、冷えた手を温めるような瞬間が何度か訪れた。孤独と一緒にいることで思うこと、感謝すべきことが増えていることを彼は実感していた。闇の中でも見つけた希望を信じて、青志は一晩中、自身の未来への準備を整え続けた。彼のその姿こそが、厳しい環境での生き延びる力強さを象徴しているようだった。