第18話 「密室の陰謀と真実の扉」

久遠乃愛と雪村彩音は、大学の文学サークルの合宿で訪れた山荘の一室で、緊張した空気に包まれていた。合宿の夕食は終わり、サークルメンバーたちが楽しげに談笑している中、彼女たちは一角に留まっていた。乃愛は表情を崩さず、冷静に周囲を観察していた。彩音はその隣でやや不安げな面持ちを浮かべている。

「ねえ、乃愛ちゃん、なんだか変な雰囲気だよね」
彩音が言った。

「ええ、そうですわね。特にあの騒がしいメンバーがひそひそ話しているのは気になりますわ」
乃愛は冷静に返す。
「何かを隠しているのかもしれませんわ」

その瞬間、部屋の外から悲鳴が聞こえてきた。二人は思わず顔を見合わせ、すかさず部屋の外へ飛び出した。廊下には、顔面を青ざめさせたメンバーたちが集まっていた。全員の視線の先には、隣の部屋の扉があった。扉は開かれていなかったが、何かが起こったと直感的に感じ取った。

「どうしたの?」
乃愛は不安になりながらも冷静さを保ったまま、近づこうとした。

「中に怜奈さんが倒れてるって…」
と、メンバーの一人が震える声でつぶやいた。

怜奈。それは、SNSで注目を浴びているインフルエンサーであり、サークルの中でも人気者だった。彼女は常に笑顔を絶やさず、特に陰湿ないじめが蔓延る大学生活の中でも光り輝いていた。しかし、そんな彼女が今、苦境に立たされている。

乃愛は毅然とした態度で、その場にいるメンバーたちに指示を出した。
「すぐに救急車を呼ばなければなりませんわ。もし怜奈さんが危険な状態だったら、私たちにできることは限られているわ」

彩音はざわめくメンバーたちに目をやり、心を決めた。
「私が呼んでくるから、乃愛ちゃんは中を調べて」
そう言って駆け出し、乃愛はうなずいた。

扉に近づくと、乃愛はその傍に立ち、深呼吸をした。無理はない、これは彼女にとって新たな事件だ。手に持ったノートを確認し、素早くノートに記録を始めた。そして、扉を押し開ける。

「怜奈さん…!」
ふと声を発し、そこには息も絶え絶えの怜奈が倒れていた。部屋は散らかり、ひっくり返った椅子や落ちた道具があり、どうやら何かの争いがあったようだ。

「これは密室…?」
乃愛は心に思った。外から鍵がかかっていた様子があり、中に入る手立てがなかった。怜奈を助けるために何か手がかりがあるはずだと考えた。彼女はすぐさま怜奈のそばに駆け寄り、脈を感じた。

「幸い、まだ生きていますわ」
乃愛は胸を撫で下ろし、不安な声を忍ばせた。

その瞬間、彩音が戻ってきて、救急車に電話したことを報告した。だが、その声には感謝の気持ちよりも、怜奈の様子が気にかかる声が込められていた。

「何があったのかしら?怜奈さん、何か言える?」
彩音が彼女に呼びかけた。

「いじめ…」
怜奈はか細い声でつぶやいた。
「私を…殺そうとしたの…」

それは彼女の最後の言葉であった。確認のために、乃愛と彩音は周囲の様子を調査を始めた。まずは、ノートが床に落ち、その内容を確認する。慌ててメモを取り出し、ノートを眺める。

その中の一文が目に飛び込んでくる。
「私をいじめてた奴…必ず報いを受けさせる」

「彩音さん、この内容を見てごらんなさい。怜奈さんは何か確信を持っていたようですわ。この日記には、彼女の心の内が綴られているのかもしれないわ」
と乃愛は興奮気味に言った。

「彼女が書いた内容の中には、いじめてた奴の名前があるかもしれないね。探してみよう」
と彩音も気を引き締めた。

その時、メンバーの一人が部屋の入り口に現れ、
「みんな、外に出てくれ。警察が到着した」
と言う。

二人は、不安を抱えながらも、怜奈の残した手がかりを探し続ける。隣の部屋からの音が途絶え、時折聞こえる声が緊張を生み出した。

数時間の後、警察が到着し、証拠を集め始めた。乃愛と彩音も、捜査に必要な手がかりを収集するために動くことに決めた。

「乃愛ちゃん、怜奈さんのスマホやSNSアカウントを見たらいいんじゃない?」
彩音が提案する。

彼女たちは怜奈のスマホを探し、何気ないやり取りの中に彼女が触れたストーリーのスクリーンショットを見つけた。それは、同サークルのメンバーを含む多くの人々との交流であり、美しい風景や楽しい瞬間が収められている。

「彼女自身がこの環境を楽しいと思っていたということは、深い感情があるのかもしれませんわ。このサークルの一員として、苦しい経験を共有していたのかも」
乃愛は考え始める。

その瞬間、あるメッセージに目がとまる。
「あの子には報いを受けさせてやる。私を見くびるから。いつか、私の正体を知ることになる」

そのメッセージの内容は他のメンバーだと確認できた。そして、彼女がこのサークルの誰かを特定しているようだった。

「これ、重要な手がかりなのでは…」
乃愛は興奮した。

「乃愛ちゃん、そのメッセージの発信者を特定できたら!」
彩音もさらに意欲的になった。

乃愛はノートに記録されていたサークルメンバーの中から、メッセージを送った相手を一人ずつ思い出す。その中に、怜奈の書いた内容に小さく触れただけのメンバーの名があった。
「似ている名前…このメンバーかもしれませんわ」

「え?そのメンバーが怜奈さんに何かしら復讐心を抱いていたの?」
彩音は眉をひそめた。

「四つの名前、言いましょう。麻美・直樹・恵・祐樹…この中の誰かが真実を知っているかもしれませんわ」
乃愛は静かに口を開いた。

警察に報告した情報を基に、乃愛たちは充実感に包まれた。彼女たちの目が輝き始めた。しかし、彼女たちの行動によって、全ての真実が明らかになりそうだ。

警察も捜査を進める中、周囲の人々の動揺が広がっていた。
「怜奈さんの事件について、あの人たちが真相を明らかにするのかもしれない」
と噂が立っていた。

最終的には、乃愛と彩音の考えをもとに、捜査が進展する。怜奈のSNSアカウントから辿られて行く中で、ついにその発信者が特定された。まさかの意外な展開が待っていた。

「この事件、真実の扉を開く鍵は、あのゆかりさんになります。彼女の言葉が成功への道となるでしょう」
警察がその女性の逮捕を決定づけた。

瞬く間に、杭が締め付けられる。真実を知る者は少なく、乃愛と彩音の両者は最後の共闘へと挑んでいくのだった。