第17話 「探偵コンビの冒険:消えた薬品の謎」

久遠乃愛(くおん のあ)は20歳。まるで人形のように整った顔立ちに、黒髪のロングストレートが優雅に舞う彼女は、大学で文学を専攻する探偵であった。そんな乃愛の相棒、雪村彩音(ゆきむら あやね)は、茶髪のボブカットと明るい笑顔で、彼女の冷静な観察力を引き立てる役割を果たしていた。

春の息吹が感じられるある日、乃愛と彩音は大学の研究室に呼ばれた。噂では、そこで薬品が消えるという奇怪な事件が発生しているらしい。乃愛はその話を聞いた瞬間、興奮を抑えられなかった。このスリリングな事件こそ、彼女の探偵心を揺さぶる材料であった。

「乃愛ちゃん、これ、すごく不思議なお話なんだって。研究室の中で薬品が何度も消えるんだよ。しかも、誰かがそれをやっているらしんだけど、全然手がかりがないみたい」

彩音の目がキラキラと輝いている。彼女の好奇心と行動力は、乃愛にとっていつも刺激的なものであった。

「私たちが行ってみる価値はありそうですわね、彩音さん」

乃愛は優雅な仕草で髪をかきあげ、すぐさま研究室に向かう準備を始めた。運転免許を持たない彼女は彩音の運転する車に乗り込む。彩音の無邪気な笑顔に、乃愛も心の中でほほ笑みながら、到着するまでの道すがら事件の可能性を模索していた。

研究室に到着すると、薄暗い地下室の扉の前に立つ。この場所は、薬品や試薬が保管され、学生たちが日々研究を行う重要な場所である。しかし、今は無数の疑念がその扉の向こうに潜んでいる。

「ここが研究室。さあ、まず入ってみようよ!」

彩音は目をキラキラさせながら、嬉しそうに扉を開けた。乃愛はその背中を追い、暗い部屋の内部を注意深く観察する。家具は整然と配置されているものの、自然さを欠く何かがそこにあった。

「ねえ、これ、家具が動かされてるっぽい。まるで誰かが急いで物を取り出したみたい」

彩音の声が響く。乃愛はその言葉を聞きながら、周囲をぐるりと見渡した。特に、科学者たちが細心の注意を払って保管しているはずの薬品棚の前に、何か違和感を覚える。何かが暴力的に動かされたようにも見える。

「まずは手がかりを集めましょうわ。どこから始めますか、彩音さん?」

乃愛が冷静に尋ねると、彩音は雄大に指を振った。
「私が探すから、乃愛ちゃんは後ろについてきて!この部屋の暗い隅々まで調べてみる!」

彩音は明るく振る舞い、すぐに部屋の中を動き回る。乃愛はその背中を見守りながら、彼女の行動を静かに確認する。彼女の行動力が事件解決の鍵を握ると信じているからだ。

「ここに何かあるかも!ちょっと見せて!」

彩音は小さな棚の間に手を突っ込み、手にしたのは何かのパッケージだった。それは、いつの間にか消えてしまった薬品のラベルが貼られた空のボトルだった。

「これ、消えたやつじゃない?」
彩音は自信満々に言った。

「ええ、貴女のおかげで進展がありましたわ。明確な証拠が揃ったら、次のステップに行きましょう」

乃愛は冷静な口調で答え、さらに他の物品を調べ続ける。彼女の分析力と彩音の行動力が合わさることで、良い結果に繋がっているように感じられた。

その時、急に部屋の外から大きな音が響いた。
「なんだろう?」
彩音は驚いた様子で扉の方向を見つめる。

「想定外の事態かもしれませんわ。誰か来るかもしれません」

その瞬間、乃愛は胸騒ぎを覚え、再び探査に意識を集中させた。この事件の背後には何か危険な秘密が潜んでいるのではないだろうか。彼女は冷静さを保ったまま、彩音に隠れるよう指示した。

「彩音さん、隠れてください。そこで静かにしていてくださいわ」

彩音は少し不安そうに目を丸くしながら頷き、すぐに近くの陰に身を潜めた。

次の瞬間、扉が開き、一人の男性がゆっくりと入ってきた。乃愛は息を潜め、彼を観察した。彼は大学の研究者ではないようだ。装いも不自然で、何かを意図するかのように、怪しく振舞っている。それは、彼女が過去に見たことがある印象を与えた。

「まさか、あの人が…」
乃愛は心の中で呟く。

彼女の直感が当たったら、これはただの薬品の盗難事件では済まされない。不自然に動かされた棚、空のボトル、そしてこの男。すべての要素が絡み合う中、乃愛は思わず息を飲んだ。

その男性は具体的な行動を始め、棚から薬品を手に取っては中身を取り出す様子を見せた。乃愛は何かを計画していると直感し、その場で何とかその意図を探るために、静かに進む準備をしていた。

「彼が薬品を盗んでいるのか、あるいはもっと別の目的があるのか…」
乃愛は冷静に分析し続ける。しかし、彩音が緊張した面持ちで拳を握りしめているのを見て、彼女は心を少し和らげた。

扉の向こうから、突然の歓声が聞こえた。
「やっぱり見つけた!君がこの薬品を隠していたのか!」
それは研究室での別の研究者の声だった。

「逃げて!」
乃愛は思わず彩音に指示し、急に状況が変わる予感を抱いていた。しかし彩音は動かなかった。その瞳の奥に何か真剣な表情を浮かべていた。

「乃愛ちゃん、見つけたよ!私、準備ができてるから、いくよ!」
彩音は立ち上がり、思い切って男に立ち向かった。

「待って!」
乃愛は思わず声を上げてしまったが、彩音はすでに前に進んでいた。

その瞬間、男は驚いた顔をし、保管していた薬品を捨てて逃げようとした。

「このっ!」
彩音は心の中で勝利の声を上げ、男を捕まえに向かおうとした。しかし乃愛は引き留めた。
「ダメ!警察を呼ぶまで待ちましょう!冷静に!」

彼女は冷静さを保ちながら、その場の状況を把握していた。警察を呼ぶ間もなく、彩音が男を押さえつけ、言葉を呼びかけた。

「あなたは誰ですか?何をしているの?」

男は緊張して顔を青くし、答えを濁した。
「何もしていない。寄り道をしていただけだ…」

「信じられないよ!あなたがこの薬品を盗もうとしていたのは明らか!」
彩音は反論した。

その時、乃愛は照明が反射して何か異光を放つものを目にしていた。彼女は急いでそのアイテムを手に取り、男の前に示した。

「これ、あなたの名刺ですね。どうやら、あなたがこの研究室に出入りしていたことが確かなんですわ」

男は動揺し、顔を背けた。

「そ、それは…!」

その瞬間、乃愛は男の動機を見抜いた。それは過去の秘密を守るためだった。彼は高校時代の同級生で、過去の失敗や犯罪を隠すために大学での研究を利用していたのである。

「この事件には、あなたが抱える秘密が関係しているのではありませんか?」
乃愛は静かに問いかけた。

男は顔を真っ黒にして沈黙するしかなかった。彩音はその姿を見て、さらに踏み込もうとした。
「あなたはなぜこんなことを?みんなの努力を無駄にするの?」

「言うな!もう過去は捨てられないんだ」
と男は必死に叫んだ。

次第に状況が落ち着こうとしていた。乃愛は、男の姿勢と彼の心の闇を見抜き、これがただの薬品の盗難事件ではないことを確信していた。

その後、大学の警備に通報し、男は逮捕されることになった。乃愛と彩音はこの奇怪な事件の真相を解明し、それに伴う秘密を明らかにする手助けをしたことになった。

研究室を後にする時、彩音は大きくため息をついた。
「本当にドキドキした!乃愛ちゃんと一緒なら、どんな事件も乗り越えられる気がする!」

乃愛は微笑みながら答えた。
「そうですわね、互いの力を合わせることで、どんなミステリーも解決できるはずですわ」

二人はその幸運を共有しながら、未知の冒険へと足を踏み出していった。大学生活と探偵活動が交わり、彼女たちの絆は一層深まったのだった。