第14話 「猫の失踪と女子大生たちの冒険」

春の柔らかい日差しが注ぎ、大学の図書館前で久遠乃愛と雪村彩音は顔を合わせていた。乃愛はそのクールな表情の奥に秘めた思惑を抱え、彩音は明るい笑顔で元気な声を上げる。今日もまた、何か事件の香りが漂っている気がした。

「乃愛ちゃん、あの子見た? ペットの猫が行方不明なんだって! 早く助けてあげないと!」

彩音の言葉に乃愛は冷静に頷く。
「それは確かに急ぎの案件ですわね。でも、理由をもう少し詳しく教えてくださらないことには、具体的にどう動けば良いか分かりませんわ」

彩音はちょっとした困惑の顔を見せ、一呼吸置いてから話し出した。
「あのね、その子のペット、あずきちゃんっていう猫なんだけど、最近なぜか家から出なくなっちゃったの。最初はただの隠れんぼかと思ったけど、どうやら異変があるみたい」

乃愛は推理小説で鍛えた冷静な思考を巡らせる。ペットの失踪に何が関係しているのか。それを探り当てるために、まずは情報を集めることに決めた。
「では、早速その子に話を聞きに行きましょう」

図書館の中、彩音は思い出した様子でうなずく。
「その子、アルバイト仲間の美咲ちゃんだよ。図書館で働いているから、すぐに会えると思う」

乃愛は微笑みを浮かべる。
「美咲さんですね。彼女の様子を観察しながら話を聞くのが良いでしょう。行きましょう」

図書館に到着すると、美咲は奥の方で本を整理していた。彼女は華奢で黒髪が肩にかかる、少しおっちょこちょいな印象を持つ子だった。乃愛が声をかけると、美咲は驚いたように振り返った。

「久遠さん、雪村さん! こんなところでどうしたの?」

「実は、あずきちゃんのことでお話を聞きたいと思ってお伺いしました」

彩音が先に話し出す。
「最近、あずきちゃんを見かけなかったって聞いたんだけど、どんなことがあったの?」

美咲は心配そうな顔で両手を組み、ぽつぽつと話し始めた。
「あずきは普段は外に出てもすぐ帰ってくるのに、今回はまったく帰らないの。まるで家出でもしたみたい……」

その言葉に乃愛は思考を巡らせる。家出の理由がどこにあるのか、まだ手がかりはないが、何かの影響を受けているのだろうか。乃愛は美咲の表情を注意深く観察しながら、質問を続けた。
「あずきちゃんが行方不明になった当日の様子を伺いたいのですが、何か変わったことはありませんでしたか?」

美咲は考え込むように目を瞑り、
「その日は、友達がアルバイトに来てたんです。私がちょっと外に出た隙に、あずきが出て行ったのかな……うーん、でもその時、友達は近くで何かしていたはずなんです」

乃愛は美咲の言葉を深く考えた。友達がいたこと、そしてその友達が何をしていたのか。果たしてそれが失踪に何か関係しているのだろうか。乃愛の中で微細な疑問が芽生えていた。

「その友達は、どなたなのでしょうか」

「えっと、あの時一緒にいたのは、健太くんです。彼、たしか1年生の子で……」

その名前を聞いた瞬間、乃愛は何かを感じ取った。健太。図書館に出入りするような薄暗い雰囲気を持つ、少し陰のある少年だった。同じ学生ながら、乃愛には彼の行動には疑念の影があった。

「健太くんとは普段は仲良しなのですか?」

美咲は首を横に振った。
「いや、彼とはあまり話さない関係です。ただ、その日は偶然一緒になっただけです」

話は進んでいくが、乃愛は内心焦りを覚え始めていた。手がかりは見つかったものの、もっと具体的な証拠が必要だ。それによって、行動を起こすきっかけにつなげることができる。

「ところで、あずきちゃんの好きな食べ物は何ですか? 何かお気に入りのものがあれば、探しに行く際に使えそうですわ」

美咲は少し驚いた様子だった。
「あずきは缶詰が好きなの。特に、まぐろのやつ!」

「では、その缶詰を持って、近くを探索してみるのも良いかもしれませんわね。みんなで協力して探せば、見つかるかもしれませんわ」

彩音がうなずく。
「うん、そうだね。私も手伝うよ!」

「それでは、食材の調達とともに、健太くんにコンタクトを取ってみるのが良いでしょう。彼の行動や言動を観察しながら、真相に迫りましょう」

その後、乃愛たちは早速、まぐろの缶詰を買いに行き、再び図書館へ戻った。まぐろの香りが漂う缶詰を持ちながら、乃愛は美咲に促され、健太のいる図書館へ向かう。

図書館の隅に、健太は他の友達と楽しげに談笑していた。乃愛と彩音は彼に近づき、自分たちが何をしようとしているのかを伝えた。
「健太くん、あずきちゃんのこと、何か知っていることはありませんか?」

健太は驚いた顔をして目を丸くしたが、ゆっくりと答えた。
「あぁ、あの猫のこと? 特に、知っていることはないけど、確かにその日、ちょっと不気味なことはあったかも」

乃愛は心の中で引っかかるものを感じながら、深呼吸した。
「不気味? それはどのようなことですか」

「何か猫が普段通らない道を歩いているのを見かけたんだ。あの時、気を取られていて、なんとなく気になっただけだけど。でも、その後ちゃんと帰ってきたんじゃないの?」

「いえ、あずきは今、行方不明なのです。それにその時に見かけた道はその場から遠くないの?」

一瞬、健太の表情が曇ったように感じた。何かを隠している気がした。それともただの偶然なのか。乃愛はその疑念を保留しておくことにした。

「では、もしよろしければ、その場所に私たちと一緒に行ってくれませんか? あちらの方なら何か手がかりが見つかるかもしれませんわ」

「本当に行くのか! うーん、まぁいいけど」

乃愛と彩音、そして健太の三人は、一緒に行動することに決まった。健太が案内するままに、図書館の裏手に向かって歩き始めた。

「私、少し肌寒いと思ってたら、なんかコースがあるみたいだよ。猫が行くとしたら……」

「ええ、何か特別な理由があったのかもしれませんわね」

意外な静けさが周囲を包み、乃愛の背筋が粟立つ。頭の中で色々な事情や背景が絡み合い、頭を悩ませていた。まぐろの缶詰を持っているこの瞬間、何かが生じる予感があった。

歩き始めてしばらくすると、雲の切れ間から陽の光が垂れてきた場所があった。そこはまるで猫が潜り込むために作られたかのような、細い隙間がある小道だった。
「この道ですね」

健太は小道の奥を見つめ、
「確かにあの時、猫がこっちにいたのを見たような気がする……」

その言葉を聞いた瞬間、乃愛は思考を働かせた。これまでの話の中で図書館の周辺の状況や、健太の証言に疑問を持ち続けていた。

「実は、あずきちゃんがこの道に隠れていたかもしれません。もっと詳しく見てみましょう。きっと、何か手がかりがあるはずですわ」

小道を進むと、緑の草や茂みで隠されたエリアが広がっている。乃愛は自らの直感に従い、心を引き締めつつ探索を始めた。しばらく進み、茂みの中から光る何かに目が留まった。

「これ、何かの食べかけのパンですわ。食べかけということは、誰かがここで何かしていた証拠かもしれませんわね」

乃愛はそのパンを指さし、彩音と健太を呼び寄せた。
「この近くで猫が見つかるかもしれませんわ。引き続き、周囲をよく探ってみましょう」

その時、突然、草むらから
「あずき!」
という声が聞こえた。見上げると、美咲が慌てた様子で走り込んできた。
「あずきが見つかったかも!」

乃愛は驚きつつも、彼女の後を追うままに駆けていった。その瞬間、あずきの姿が草むらから飛び出してきた。可愛い顔をして、まるで聞かれたかのように、まっすぐに美咲の元へ向かっていく。涙が浮かび、目の前には安堵の光景があった。

「やった、あずき!」
美咲が抱きしめると、茶色の毛並みの猫も愛らしく鳴いた。乃愛はその様子を見て、心の底からほっとしていた。

「本当に良かったですわ。やはり、数々の手がかりが組み合わさっていくことで真相が見えてきたのですね」

美咲は涙を拭いながら、親友の二人にも感謝を伝える。
「ありがとう、本当にありがとう!」

「この料理は、あずきちゃんのために、また美咲さんをサポートするのが楽しみですわね」

その言葉が耳に残る中、乃愛は事件の真相を解析すべく考え続けていた。パンの存在、健太の違和感、そして美咲の反応は、全体的なストーリーの大きな絵を成すひとつのピースだった。様々な要素を絡ませながら、真相に迫る瞬間を迎えようとしていた。

実際、アルバイト仲間の間にも隠されたヒントがあったのかもしれない。乃愛は心に思い描き続けた。全ての根源から案内され、彼女の合間にあるミステリーは解決となり、要素の一つ一つが彼女の理論に寄与していく。

その後、事件の詳細や陰謀、恋人を守るための決断についてじっくり考えをまとめているうちに、乃愛の中に新たな推理が生まれた。猫の失踪の背後にある人間関係や感情が、別の形で次々と繋がり始めた。

「これこそ、私たちの物語であり、キャラクターの性格が絡み合って、すべてが一つの大きな事件となっていくのですわ」

乃愛は心の中で自問自答を繰り返しながら、図書館の静けさの中で彼女の新たな冒険が待ち受けていることを確信していた。新たなミステリーへと背を向けない強い意志をもって。