ある晴れた午後、久遠乃愛は自宅で静かに勉強をしていた。文学部に通う20歳の彼女は、推理小説を愛する一方で、自らもミステリーを解決する探偵としての顔を持っていた。彼女の目の前には、積み重なった文献とメモが広がっている。その中に目を通していたところ、突然、友人の雪村彩音からの電話が鳴った。
「乃愛ちゃん!大変なことが起こったの!」
電話越しの彩音の声は興奮していた。彩音は彼女の幼馴染で、いつも明るくて社交的な性格だ。しかし、その声からはいつもの元気さが欠けているように感じた。
「どうしたのですか、彩音さん?」
乃愛は冷静な口調で尋ねる。
「私たちのサークルの後輩が、飼っていたペットを失くしちゃったの!あの子、とっても大事にしてたのに、どうしよう!」
彩音の言葉から、事の重大さが伝わってきた。ペットの失踪は、単なる動物の行方不明ではなく、飼い主の心に大きな影を落とす事件である。乃愛は関心を示した。
「その後輩のところへ行きましょう。場所はどこですか?」
「地元の図書館なの!後輩さんが、そこに最後にペットを見たって言ってた!」
乃愛は瞬時に頭の中でシナリオを描いた。図書館は多くの人が集まる場所であり、さまざまな出来事が交錯する場でもある。彼女は軽やかに立ち上がり、彩音に微笑みかけた。
「では、すぐに行きましょう。私たちにできることを考えましょう」
数分後、二人は図書館へ向かう。乃愛の黒髪は風に揺れ、彼女はミステリアスな雰囲気を醸し出している。一方、彩音は明るく笑顔を絶やさず、彼女を励ますように話しかけていた。
図書館に到着すると、静まり返った空間が広がっており、二人は後輩の待つ部屋に向かった。すると、後輩の美少女が泣きじゃくる姿が目に入った。彼女はサークルの一員であり、いつも元気で明るい存在だった。
「彼、どこに行っちゃったの……。私の愛しいペットが……」
後輩は涙を流し、そう言った。
「落ち着いてください、しばらくお話を聞きますから」
乃愛は優しく語りかけ、後輩を慰める。彼女の優雅な物腰は、後輩の気持ちを少しずつ和らげているようだった。
「最後に見たのは、図書館の裏の庭です。遊ばせていたら、急に姿を消してしまって……皆で探したけれど、どこにもいないの!」
乃愛はその情報を聴き、何か考える表情を浮かべる。
「分かりました。まずはその裏の庭を調べてみましょう。彩音さん、一緒に行きましょう」
との言葉を受け、二人は庭へ向かった。裏庭は静かで、明るい日差しが心地よく感じられる場所だった。草木が茂り、ペットがどこかに隠れている可能性もあった。彩音は周囲を見回し、好奇心を抑えきれずに言った。
「乃愛ちゃん、ここはとても広いね!どこから探せばいいのかしら?」
乃愛は冷静な視線で庭を観察し、何かしらの手がかりを探していた。そのとき、彼女の目が何かに留まる。
「こちらを見てください、彩音さん。この草の間に、何かが引っ掛かっているようですわ」
乃愛が指をさすと、汚れたシャツの袖口の一部が草の中に隠れていた。彼女はそれを取り上げ、じっくり観察する。これが、後輩のペットに関連するものなのか、あるいは他の手がかりなのか——。
「これは、後輩が着ていたものではないかもしれませんわ。でも、誰かがここにいた証拠です」
乃愛は推測を胸に、周囲を確認し始める。彩音もその行動に合わせて、興味深そうに見つめる。
「いいえ、乃愛ちゃん。この気持ち悪い汚れ、何かの跡かもしれないよ。事故が起きたのかも」
乃愛はその意見を受け入れ、もう一度慎重に周囲を調べることにした。彼女は思考を巡らせ、その汚れの正体を推理していく。すると、彼女の頭にひらめきが浮かぶ。
「事故ですわ。その可能性も否定できません。しかし、周囲に目撃者はいたのでしょうか?」
彩音は自らの交友関係を活かし、サークルのメンバーに連絡を取ることにした。この場からの行動力は、彼女が得意とする分野だ。彼女がその間に、乃愛は庭をさらに詳しく調査する。
時間が過ぎる中、彩音が戻ってきた。
「乃愛ちゃん、重要な情報を得たよ!他のメンバーによると、後輩のペットが現れる直前、サークルの中で後輩に少し嫌味を言っている子がいたらしいの。彼女、やきもち焼きなんじゃないかな?」
「それは気になりますわね。ただの嫉妬かもしれませんが、何か理由があるのでしょう。しかし、その人物に直接問いただす前に、少し様子を見た方が良いかもしれません」
乃愛は冷静に意見を述べ、次の行動を考える。彼女はその人物に対する疑念を持ちながら、手がかりを結びつけていく。彼女が考えている間、彩音は友人たちと連携を取りながら、探し続けていた。
そして、数日後。二人は再び図書館に戻り、後輩と話をすることになった。彼女はどこか不安げで、二人を迎え入れる。
「乃愛さん、彩音さん。まだペットは見つかっていないの……どうしよう」
「後輩さん、聞きたいことがありますの。飼い主として、誰かに意地悪されたことはなかったですか?」
乃愛の言葉に、後輩は困惑した表情を見せる。すると、少し考え込んだ後、彼女は言った。
「実は、後輩の一人がペットに嫉妬しているのを見かけたことがあるの。私はその子に対して何も言えなかったんだけど、とても腹が立ったの」
乃愛はその言葉に耳を傾け、さらに質問を重ねる。
「その後輩は、どのような人物かしら?」
後輩が指摘したのは、サークルの女子であり、普段から存在感が強く、周囲からは
「自分が一番」
と思っている様子だった。乃愛はその情報を使い、推理を進めていく。
「その後輩にアプローチする必要がありそうですわ。今の状況では、彼女が何かを隠しているかもしれませんし」
乃愛は、彩音と共に真相解明に動き出す決意をした。二人は次の日、彼女を訪ねることにした。彼女がいると思われる場所は、図書館の奥にある自習室だった。
彼女の名は、涼美。室内に入ると、涼美は部屋の隅で本を読んでいた。二人は顔を見合わせ、乃愛が静かに声をかけく。
「涼美さん、少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」
涼美は驚いた様子で顔を上げた。
「何か用?」
乃愛は微笑みながら言葉を選びながら話し始める。
「あなたにお願いがありますの。後輩のペットの行方について、何か知っていることはありませんか?」
その言葉に、涼美の表情は一瞬冷たくなった。しかし、次の瞬間、彼女が何かを理解したかのように手を振り上げた。
「私は何も知らないわ!あの子がどうなっても関係ないし!」
彩音は発言に激怒し、涼美に詰め寄った。
「あなたもサークルの一員なのよ!そんな冷たい態度、許せない!」
その瞬間、乃愛は二人のやり取りを冷静に見つめていた。彼女は心の中で閃き、すぐにそれを口にする。
「実は、涼美さん。あなたが言っていることが本当かどうかわからないが、私たちは手がかりを見つけているの。もしかしたら、あなたがそのペットを隠しているのではないかしら?」
涼美は一瞬固まり、目に恐怖を浮かべた。それから、彼女は少し黙りこくったまま、じっと二人を見つめていた。乃愛の言葉が、彼女の中の何かを揺さぶったに違いない。
「私は本当に関係ないわ!それよりも、あの子が何をしたのか知っているの?」
乃愛は彼女の反応に満足し、さらなる推理を続ける。
「後輩のペットが失踪した原因は、あなたが何かを隠したからではありませんか?これがあなたの意図であれば、後輩にとっても致命的なことになりかねませんわ」
涼美は泣き始め、その様子から心の中に抱える苦悩が見えた。彼女は自らの無実を主張するかのように言った。
「何でもない。ただの事故よ……彼は自然に逃げてしまっただけ」
その言葉に、乃愛はただ事故ではないと言いたかった。しかし、涼美の表情は彼女の意図を読み取ったに違いない。乃愛は、彼女がペットに何かをしたのではないかという不安感を抱きながら、思わず心を揺さぶられる。
「事故の隠し事があったのではないかしら?サークルのメンバーと何かが……何か特別な出来事があったのでは?」
涼美は涙を流し、恐れに震えながら口をつぐみ、ただ静かに考え込んでいた。
やがて、涼美がついに声を絞り出す。
「実は、少し前にペットにケガをさせてしまった……そのため、隠す方が良いと思ったの」
乃愛はその言葉が真実だと確信した。涼美が後輩を思うあまり、自らの過ちを隠してしまったのだ。事故は全てを変えてしまう。乃愛は口角をわずかに上げた。
「それでも、真実が明らかになった方が後輩にとっても幸せですわ。あなたがそのことを語ることこそ、彼女への道を開くのですから」
涼美はその言葉に涙し、ゆっくりと頷いた。彼女は心の中に抱えていた苦悩を解放するかのように、本を閉じた。
「ごめんなさい。私が間違っていたんだ。真実を隠すことで、自分の幸せだけを考えてしまった」
乃愛はその瞬間、涼美を許すと決めた。道は続いていく。間違いは必ずしも罪とならない。彼女の真実の言葉が、サークルの中で続く絆を築いていくことになるだろう。
「私たちにお手伝いできることがあれば、協力しますわ。真実を知り、ペットを見つける手助けをしたいと思いますので」
涼美は感謝するように二人を見つめ、恥じらいを隠すように微笑む。
数日後、サークルのメンバー全員で集まり、ペットの行方を探す大がかりな作戦が立てられた。涼美も自らの手がかりを持ち寄り、捜索が進められた。
それから数日経ったある日、後輩は再び乃愛たちのもとを訪れる。彼女の目が輝いており、その心に躍動感が溢れていた。
「乃愛さん、見つけました!私のペットが!」
二人は驚き、目を見張った。その日は晴れやかな青空の下、図書館の裏庭でペットが見つかったのだ。彼女は涙ながらに感謝し、乃愛たちに余裕を持って微笑みかける。
「本当にありがとうございます。あなたたちのおかげです!」
乃愛は微笑みながら言った。
「私たちはただ、真実を導いただけですわ。それが全てですから」
その一瞬、乃愛は達成感に包まれた。彼女の探偵活動が再び使命感をもたらし、心温まる瞬間を創造することができたのだ。
サークルの仲間たちも一緒になり、この出来事を祝う。彩音も盛り上がって笑い、仲間と共に幸せな時間を過ごすことができる。彼女たちの絆は深まり、お互いの思いを通じ合うことができた。
乃愛は、この事件を通して、友情の大切さと真実を語ることの重要性に改めて気づいた。そして心の奥底で、探偵としての根幹を再確認したのだった。彼女は次の事件を待ち望む心を抱き、彩音と共に新たな推理の旅へと踏み出した。